トリガーとしてデビューしてから、グループは絶好調だった。 慌ただしくも充実した日々が続いていた。 いつしか、5年の月日が経っていた。天が23才、陸が15才の時だった。父が亡くなった。 脳卒中だった。若くして、突然だった。過労もあったのかもしれないとのことだった。天は家を出た気まずさから、父に会うのを先のばしにして、結局会えたのは棺桶ごしだった。ばかみたいだ。いつかがあるなんて保証はどこにもないのに。母の時で、わかっていたはずなのに。くだらないボクの意地や気まずさのせいで、もう二度と父と話しをすることさえもできなくなってしまった。後悔と喪失感で、息がつまりそうだった。身内だけの、静かな式だった。 天は、隣に座る陸を抱き寄せた。頼りないパイプ椅子がぎしりと情けない音を立てて、陸の少年特有の薄い体が、力無く天へともたれかかってきた。 陸は泣かずに、じっと棺桶を見つめていた。 その目には怒っているみたいな、後悔と悲しみの混じった、なんとも言えない感情が揺らめいているように思えた。メンバーや事務所に事情を説明して、陸を引き取って天のマンションで一緒に暮らすことにした。なんとか実家を整理して、陸が天の部屋へとやってきた。 天は、しばらく仕事は出来るだけセーブしてもらえるようにと頼んだ。なんとなく家族の縁が薄いのかなと諦めにも似た気になったが、唯一の血縁である陸を失うことだけは、死んでも絶対に耐えられないと思った。それに、慣れない環境で発作が起きないか心配だった。 一緒に新しい生活基盤が整うまで…親を急に亡くした陸の心が落ち着くまで… 天は出来るだけ陸の側にいてやりたかった。天の家に来てからも、当たり前だが陸は落ち込んでいる様子だった。 陸の支えになりたいと思って接しているが、陸は遠慮しているのか大人しく、わがままも言わずに天にあまり甘えてもこない。離れていたくせに、急に家族面するなと思われていたらと思うとどうしても心が怯んでしまって、正直に言うと踏み込めずにいたのだ。 陸にとって頼って、甘えてもらえる対象から自分はもう外れてしまったのかもしれない…その事をさみしく感じたけれど、幼児のように泣きわめくでもないそのことが、陸の成長の一つなのかとも思い込んで、天は頼ってほしいという自分の気持ちに蓋をしつつ、なんとか二人での生活が始まったのだった。