「告白よ? 今度はね」「紗夜ちゃん、私はね……私が“女優の白鷺千聖”で在り続ける為にも、恋愛は不必要だと考えていたわ。そして今も、その考えは変わらないの。今更、年頃の女の子みたいに甘い夢を見るつもりがないわ。だけど……」「恋に落ちちゃったのよ、紗夜ちゃんに」 どうして紗夜ちゃんなのかしらね、と千聖は面白そうにしながら紗夜へ歩み寄る。それは自分が訊きたいと言いたかったけれど、何が起こるか分からないものねと呟かれた言葉に、紗夜はただ黙るしかなかった。 それは一理あると、紗夜もそう感じたから。千聖は紗夜を好きだと言うけれど、肝心の紗夜は千聖を好きなのかと訊かれたら、間違いなく首を傾げるだろう。「……白鷺さん、」「分かっているの。紗夜ちゃんは私をなんとも思っていないことは、」 しかし、どうにもこう先程から現実味がないのは、千聖があまりにも淡々と告白をしているからなのだろうか。割と頭の中では動揺をしている紗夜だけれど、いまいち千聖が自分のどこに惹かれたのかさえ分からなければ、千聖自身も紗夜に惚れたのは計算外だと笑っている。 そう考えてから、紗夜は違うわねと心の中で否定した。 “淡々と見せている”だけなのだ、千聖はいつも。 じっと見据えれていれば分かる少しだけ震えている手、若干いつもよりも早くなっている口調に、寂しげに揺れる瞳は、どうしても紗夜の心を惹きつけてやまない。「この前の様子がおかしかった理由は、それですか?」「紗夜ちゃんって、結構デリカシーがないのね」「…………すみません」 きっともう、主導権は千聖に握られている。 だけど、今こうして告げられてみても、恋がどういう感情なのかをまだ知らない。 だからこそ、安易に答えをだすべきではないと紗夜は思った。「誰かに惚れるつもりもなければ、タイプでもない人に、たった数週間で気持ちを変えられるって、なんだか悔しいと思わない?」「……白鷺さんは、話してみると面白い方ですね」「あら? それは紗夜ちゃんに、そっくりそのまま返すわ」 否、ずるいのかもしれない、この言い方は。 だけど、素直じゃないこの人には、ずるいくらいが丁度いいのかもしれないと、紗夜は微かに口角を上げた。自分らしくもない返事だと自覚をしている。曖昧な答えは、あまり得意ではなかった。 でも、ただ綺麗なだけではないそのアメジストを独り占めしたいと感じたのもまた事実で、触れてみたかったその頰へ、自身の手をゆったり添えて千聖へ囁いてみる。「……私を恋に落としてみてくれますか? 白鷺さん」「勿論よ」