紗夜が、すぐ仕事を片づけるから待つように言っても、手伝わせてほしいと言って聞かなかったので彩に書類整理を手伝ってもらうことにした。 が、十数分後……「ごめんね紗夜ちゃん……余計な手間かけちゃって……」 紗夜の隣のパイプ椅子に腰掛け、肩を縮める彩。「いえ、彩さんが手伝ってくれたおかげで予定より早く終わったので気にしないでください」「紗夜ちゃん優しいなぁ……」「いえ、本当のことですよ? そうでなければ弁当を持ってくるでしょう?」「あ、そっか……そうだよね! じゃ、そろそろ食べよっか!」 すっかり元気を取り戻した様子の彩は、紗夜の横で、嬉々として弁当箱を開ける。同じく紗夜も受け取った弁当箱を開いた。「これは……?」「紗夜ちゃん、ハンバーガーとかポテト、大好きでしょ? だから、チャレンジして作ってみたんだ!」 そう。弁当箱には手作り感のあるハンバーガーとフライドポテト、それと健康に気を遣ってかサラダが詰められていた。「……! これを私の為に……?」 以前にも彩が弁当を作ってきてくれたことがあったが、その時はごく一般的で家庭的なものを作ってきたのでそれと同じようなものを想像していた紗夜は少し驚きを覚えた。「うん! 紗夜ちゃんの好きなものを作ってあげられたらなーって思って。あ、味は心配しなくていいよ! この前試しに作った時に家族にも味見してもらったし!」 ただ作ってくれただけでなく、自分の為に事前に準備してくれていた、という事実に紗夜は、彼女の健気さに改めて惚れ直した。「彩さん、私の為にわざわざありがとうございます。貴女のそういうところが大好きです」 さりげない紗夜の告白に、彩の顔は見る見るうちに赤くなっていく。「あ、ありがと! わわわっ、私も大好きだよっ! そ、そうだ、そろそろ食べよ! 時間なくなっちゃうよ!」「え、えぇ。そうですね。いただきましょうか」 彩の様子を見て自分の言動に気が付いたのか、紗夜も少し動揺しはじめたが、とりあえず手元の弁当箱からハンバーガーを手に取り、一口頬張った。「ん……おいしい……おいしいです」「そっかぁ、よかったぁ……! 私も食べよ!」 彩も自分で作った物の味を確認するように一口頬張ったが、自分でも満足の様子だった。「んー、ほんとだ! この前よりもおいしくできたかも!」 そんな二人は会話を弾ませながら昼食を食べ進めた。「フライドポテトも塩気がちょうどよくておいしいです。流石ファーストフード店で働いているだけありますね」「えへへ、そうでしょー? でも意外と簡単なんだよー?」 彩は満面の笑みで答えてみせる。「そうなんですね。彩さんに毎日作って欲しいくらいです」「ふぇ!? 毎日……!? えぇっと……」 これからもずっと一緒にいてくれと言わんばかりの紗夜の言葉に彩の顔は完全に真っ赤だ。「さ、紗夜ちゃん……? 今のは……」「えっ、いや、今の発言に特に何も真意は……あっ……」 ついさっきも訪れた同じような空気。紗夜はこの何とも言えない空気を再びつくりだしてしまったことに気づき、一瞬押し黙ってしまう。「そ、そういう意味ではありませんっ……!」 その静寂を破ったのは紗夜だった。「そっ、そうだよね! 変なこと聞いちゃってごめんね……!」 彩は、自分が気まずい雰囲気にしてしまったのではと謝罪をした。 が、会話は一度交わされただけで、再び静寂が訪れた。 紗夜は気を紛らわそうと黙々とポテトを口に運ぶ。その様子を見た彩はどこか少し気恥ずかしいのか頬を赤く染め、俯いている。 この状況がいつまで続くのかと思われたその時、「あっ……」という小さな声と共に、紗夜の手が止まった。何かと思い、彩は紗夜の様子をうかがってみると、紗夜に渡した弁当箱に何も入っていないことに気付いた。「あの、紗夜ちゃん……? よかったら私のも食べる……?」「えっ……? いいんですか? あっ……いやその……」「別に遠慮しなくていいよ?」「じゃ、じゃあ……いただきます……」 好きだからと思わず食いつくという見苦しいところを見せてしまったと思いつつ、彩が作ってくれたポテトがまだ食べられるという嬉しさがこみ上げる。