非常に珍しい、ロンジンのコロネーションモデルです。
◆英国王戴冠の記念モデル
1937年に行われた英国王ジョージ六世(※)の戴冠式を記念して造られたモデルです。
※2010年にアカデミー賞を受賞した「英国王のスピーチ」はこのジョージ六世を主人公とした物語です。
ジョージ六世の詳細についてはウィキペディアの記事が詳しいです。
『松山猛の時計王』(世界文化社)でも松山氏がコロネーションモデルを入手した話と共に、同モデルの写真が掲載されています。
確認できる限りでは、全世界で現存している懐中時計のコロネーションモデルは、松山氏が入手したもの、アンティコルムで1995年にイタリアで落札されたもの、そしてこの時計の三台のみです。
◆他の懐中時計に見られない特殊なムーブメント
戴冠式の王冠をモチーフとしたものと思うのですが、非常に特殊な珍しい以下の特徴を持ちます。
1)テンプ受けとガンギ車の受けの二箇所にファセットカットのダイヤモンドの伏石を配置。
→ロンジンでダイヤ伏石を使っている物は非常に珍しいです。
この時代だとWALTHAMですらコスト削減のためダイヤは使っておらず、そういう時代にダイヤを二箇所使用していることも特殊といえます。
2)1番(香箱)~4番の穴石にファセットカットを施したサファイヤを配置。
→時計の穴石は通常はカボション(曲面)カット。イギリスのバージ以降の古今東西、ファセット(平面を組み合わせた多面)カットされた穴石はこれ意外みたことがありません。
3)ムーブメントがゴールドフラッシュ仕上げ。
アンクル、緩急針、ネジにいたるまで全て金色の仕上げ。
ネジはネジ山も含めて金色であるため、焼入れやメッキではなく、9Kなどの金無垢の可能性があるとのことです。
→ロンジンも含め、ここまで完全に金色に統一されたムーブはこれ意外見たことがありません。
◆装飾性の高いデザイン
以下の2点が特徴的です。
前述のコロネーション3台の内、この時計だけのデザインです(他の2台はオーソドックスなデザイン)。
1)6時位置に竜頭が配置されたデザイン。
2)ベゼルと裏蓋がイエローゴールド無垢、ケース本体がホワイトゴールド無垢のツートーンカラー。
◆ロンジンによる商標登録の取得
CORONATION(戴冠式)という名称について、ロンジンは1936年12月7日に商標登録申請を出し、受理されています。
なお、以下の時系列の通り、前王の退位前に商標登録が行われており、時期的にフライング(訴えられていたら不敬罪?)なのではという話もあり面白いです。
・1936年1月20日 エドワード8世即位
・1936年12月7日 ロンジン、コロネーションの商標登録申請
・1936年12月10日 エドワード8世退位を公式発表
・1936年12月12日 ジョージ6世即位
・1937年5月12日 ジョージ6世戴冠