あたしは六人の男女の背中を見送ってふっと息を吐いた。
あたしの気持ちは通じたんだろうか。彼等は一言も言葉を発さずに立ち去った。
「…言いたい放題だな、野明。」
「…本当の事だもの。」
向うがどんな酷い事を言ったかは知らない。でも、遊馬が例えば彼等を殴り倒したとして。クビになるのはあの六人全員。遊馬は御咎め無しになるのが解っている。篠原重工と言う場所は、遊馬にとってそんな所だから。例え社長とどれだけいがみ合っていても。
「…安全装置…か。いつの間にそんなポジションになった?」
「いつかな。ここに来てから、かな。」
あたしは俯いたままの遊馬の傍へしゃがみ込んだ。
「遊馬良く頑張ったよ。あたしここまで保つとは思ってなかったもん。」
ふっと、放心した様な遊馬の顔が上がって、あたしを見詰めた。まだ、心がどこか遠くにある様な。そんな、視点の定まらない瞳。
「…ごめん。またお前に迷惑かけた…。」
「うん。」
「…いつまで、俺の安全装置で居てくれる…?」
遊馬の額が肩に落ちて来て、あたしは笑った。
「遊馬の、望むだけ。」
「俺もう少しここで頑張ってみたい。」
「いいよ。今回は未遂に終わったもの。問題無く居られる筈だよ。」
「また、止めてくれるか?」
「何度でも。あたしはその為に居るんだから。」
「…いつか、俺の安全装置なんか、卒業させてやるから。もう少し…ここにいろ。」
「居るよ。あたしはちゃんと、ここに居るから。」
あたしの肩で泣きじゃくる遊馬の背中を、叩く。
我慢する事だけを覚えた
純真無垢な貴男が、
いつか一人前の大人になって、
安全装置が要らなくなった時、
あたしも、貴男の隣で違う物になれます様に。