「ふふ、ありがとう。まあ、実は、腕を痛めたというのはただの口実なんだ。君に触れたくてね。でも流石に、皆の前で抱きしめたりキスをすることはできないだろう?」「……」 悪戯っぽく、景元が目を細めるから、俺はジィっとそれを見つめる。どうするべきか。どうしたいんだろう。無意識のうちに、俺は景元を自分から抱きしめていた。 生きていてよかったと思うのは、俺も同じだ。そして、鼻の奥をツンと突きさす罪悪感。 「……ごめんなさい」「もう、怒っていないよ。車で伝えたことが、全てだ。丹恒は、二度同じことをしたりしないだろう?」「絶対に、しない」「うん。今日の君は、とても甘えただね」「いや、か?」「いやではないよ。むしろ、とても嬉しい」 俺はいつからこんな、甘ったれになったのだろう。独りでいることが当たり前だったはずなのに、今は景元が隣にいることが当たり前で、いなければ寂しいと感じるほどだ。 景元は、何の役にも立っていない俺を大切にしてくれて、価値を見出してくれている。何に価値を見出しているのだろうか。いくら考えても、答えが出ない。抱きしめていると、景元の身体から急に力がくてりと抜け落ちた。 全身にのしかかる重さ。俺も決して非力な方ではないから受け止めることは出来たが、一体どうしたのかと驚く。景元の膝が震え、崩れ落ちる。「景元!?」「すま、ない、急に身体に、力が入らなくなってね……ひどく、さむい」「っ……今薬の影響が出たのか?すぐに診察室へ連れていく!」 景元をなんとか背負って、俺は慌てて一階へと駆け下りた。指先が酷く冷たい。全身に悪寒が走り、恐怖で心が満たされる。まさか、まさか、まさか。 恐怖に蓋をして、俺は診察室へと駆け込んだ