りく”と書かれたボードがぶら下がっているドアを開けると、本当にそっくりそのまま陸の部屋が残っていた。吸入器も、たくさん飲んでいた薬も、生前陸がよく着ていた服も、擦り切れるほど観ていたという音楽ソフトも、すべてそのままで。「……本当に、なにもしてないんだね」 「まあ、人の部屋だからな。なんか気が引けたんだ」ほんのすこし前の出来事なのに、陸をここで看取ったことが遠い昔に思える。毎晩このベッドで一緒に横になり、陸が眠るまで天は絶対に眠らなかった。最期のときまで絶対に涙を流さなかった。本当に現実にあったことなのかすら、いまの天にはわからなかった。「片付けるといっても、」 「えっ?」意識がちがうところへ向いていたため、突然口を開いた三月に天は素っ頓狂な声が出た。三月はやや苦笑して続ける。「俺たちはこの部屋をそのままにしておくつもりでいる。……たぶんないだろうけど、食い物とかが残ってるならそれだけは処分しとかないとだけど」あと、とさらに三月は続けた。「九条がなにか思い出として持ち帰るものがあれば良いなってとこ」 「……こそ泥みたいな感じだね」 「まあまあ。小さい頃の写真とかあったら、良ければ持って帰ってよ」