ナルモが「ピュ~ピュ~」と指笛を二度鳴らすと、ウィンドイーグルがナルモの肩当てを掴んだまま空へ飛び上がる。「うあ~うあ~っ!?」「どうだ? いいだろう!」 空からタランを見下ろすナルモが、得意げに笑みを浮かべる。「いいなあ……いいなぁ……。俺も空を飛びてえよ」 現在ネームレス王国で甘味――お菓子を買えるのは、ユウより駄菓子屋を任されているモリ婆の店だけである。必然、ネームレス王国の子供たちはモリ婆の店に集まるのだ。「あー、ナルモとタランだ」「ほんとだ。なにしにきたの?」「おしごとは?」 ナルモたちに気づいた子供たちが、物珍しそうに集まってくる。ちなみにナルモの従魔であるウィンドイーグルは、空を気持ちよさそうに羽ばたき、火吹き大蜥蜴は子供たちに囲まれ、撫でまわされている。ときおり、口から舌と小さな火をチロチロ出すと、子供たちは大きな声を上げて喜ぶ。「ナルモはいいとして、俺のことはタランさんだろうがっ」「なにそれー。へんなの~」「タランはタランなのにー」「あー、うっせうっせ! ほれ、散れ散れ!」 タランが「がーっ」と威嚇すると、蜘蛛の子を散らすように子供たちは楽しそうに逃げていく。「なにしてんだ?」「念のためにな」鼻をヒクヒクさせるタランに、ナルモは不思議そうに尋ねる。ひとしきり周囲の匂いを確認して安心したのか。タランは駄菓子を買うために、子供たちの列に並ぶ。 同じミスはしない。タランは慎重な男であった。「これいいだろ?」「あん?」 タランの前に並ぶ狼人の男の子が、胸につけたバッチを見せつける。「こりゃ銀じゃねえかっ!? なんでお前みたいなガキが持ってんだよ!」「へへ~。おてつだいスタンプ五十個でもらえるんだ」 苦肉の策であった。