その後、ミロスラフはすぐにその場を離れた。これは戦闘音や血の臭いにひかれて、あらたな魔物が寄って来ることを警戒してのことである。 魔物が寄って来るのは歓迎だが、連戦はよろしくない。 向かった先には簡易テントが設しつらえてあり、そのテントを取り囲むように魔物よけの結界がめぐらされていた。 ここはミロスラフがスキム山における拠点としている場所。ここに腰を据えて、ひたすら魔物を狩り続けているのだ。 言うまでもなく危険な行為である。後衛である魔法使いがひとりでスキム山に篭るなど、いっそ自殺行為といってもいい。 だが、だからこそ得られる経験は莫大ばくだいであり、すでにミロスラフのレベルはイシュカを出たときから二つもあがって『17』となっていた。 その代償として荷物袋いっぱいに詰め込んだ魔法石がすでに半分ほどに目減りしている。 魔法石はその名のとおり魔力が宿った鉱石であり、魔法使いの負担を大きく軽減することができる。 貴重なアイテムであり、ミロスラフが使い捨てた魔法石を金貨に換算すれば一財産になるのは間違いない。 もしも、この光景を父親が目撃すれば半狂乱になってののしってくるだろう――ミロスラフはそう思って意地の悪い笑みを浮かべた。 今日までの戦闘で使用した魔法石、それにいま張られている結界具。これらはすべてサウザール商会の援助で購入したものだ。 父親にはグリフォン退治のために必要なものだと言い、成功のあかつきには伯爵家とのパイプができると説いて援助を引き出したわけだが――実のところ、この論法は詐欺に等しかった。 何故といって、ミロスラフにははじめからグリフォンと戦うつもりなど欠片かけらもなかったからである。