もこもことぶ厚いダウンジャケットを着て、首元にはマフラー。おまけにニット帽も被せられて一見天だとわからなかった。「はは、さすがに着せすぎたか」 「……あった、かい」 「そうだね。今日はぽかぽかだ」スロープをゆっくり下り、マンションの敷地内にあるベンチに天を車椅子からうつして座らせてやった。挟むように、楽と龍之介も座る。天は目をきらきらさせて周囲を見た。いまは冬でどの植物たちも味気ない見た目をしているが、春になればきっと綺麗な花を咲かせるのだろう。 春になるまで、天はこちらにいてくれるのだろうか?そう考えると、楽は鼻の奥が痛む感覚を覚えた。視界がぼやける。 ……ああ、くそ。こうなることは予想していたじゃないか。それなのに、なんで。「……楽?」天と談笑していた龍之介が、すっとこちらを向いた。天もゆっくりとした動作でこちらへ向く。……天の前では、涙なんて見せたくなかったのに。 ひんやりとした手が目もとをかすめた。天が、拭ったようだ。「……わらっ、てよ、がく」 「……んな無茶な。……それなら」ああ、くそ。こんなこと、言いたくない。「……楽?」龍だって、きっとおなじなんだろうに。……俺だけ天の前で、情けない。「……死ぬなよ、天。頼むから」目もとを拭っていた手が楽の頭に伸びる。優しい手つきで撫でられ、よりいっそう涙が溢れてとまらない。……このやろう。なんとか言えよ。 それは叶わない、と優しく諭しているのか、わかったわかった、と子どものようにあやしているのか。どちらにしろ、良い答えは返ってきていないのだろう。「……ぼくは、ね」ぽつり。ひとりごとのように天は話し始めた。