彼はエレオノーラ達の推測通り、ヴァンダルーがモークシーの町に来ている事を知っていた。他にも『飢狼』のマイケルの正体を、報告された容姿からグーバモン派の配下だったマイルズだと見破り、ダルシアと名乗るダークエルフを連れている事も。 疑問は尽きなかったが。「マイルズを手懐けたのはともかく……彼は何故日の光を浴びても平気なんだ? 前、『邪砕十五剣』との戦いでは短時間だから魔術やマジックアイテムで説明できるが、今は昼間から町の裏通りをうろついている。まさかヴァレンと同じ【日光耐性】スキルを獲得していたのか? それに彼の母親の名前を名乗る女ダークエルフ。何者だ? 母親の死体は火炙りにされて灰になったはずだからアンデッドではないだろうし……母親の故郷で、親類から良く似たダークエルフでも連れ出したのか? だとしたら、いったい何のために?」 十万年以上生きている原種吸血鬼であるビルカインの知識をもってしても、まさかヴァンダルーがマイルズを深淵貴種に変異させていたとは、発想出来なかった。 しかしもう一方の謎には見当がついた。「いや、彼女は母親本人か。境界山脈の何処かにザッカートの遺産が保管されているとしたら、『生命体の根源』が残されているかもしれない。それを使って蘇生させたのか……」 ヴィダとアルダの戦いが始まる前は、ビルカインもヴィダ信者の原種吸血鬼の一人だった。そのため、ある程度境界山脈内部に何があるのか想像する事が出来る。「となると、やはりヴァンダルーと事を構えるのは正解では無いな。やはり、もう少し様子を見よう」「何もしなくてよろしいのですか? 手先の者を使う也、新たに操っている人間を送り込むなりして、計画を進めては?」 腹心の一人、ドワーフ出身の貴種吸血鬼であるモルトールが進言するが、ビルカインはそれに対して「何もしない事が肝要なのさ」と答えた。「モークシーに彼が現れたのは偶然だが、何処で当たりを引いても良いように仕込んでおいたからね。後は何もしなくても僕の可愛い人形はヴァンダルーにすり寄って行く。自然に、下心無く、純粋に。