どこまでも続く地平線には、遮るものなど何もない。夜空には、満点の星が、まさに降るように瞬いていた。目の前には、日本では考えられない道幅の道路が延々と続いている……珠紀たちがトラックを降りて以来、そこを通る車は一台もなかった。――ここがどこだかは、まったくわからない。ただ、ヒッチハイクしたトラックの荷台で長い間揺られていたところ……珠紀の膝枕でうとうとしていた真弘が、急に起き上がったのだった。「……ここ! ここだっ。俺は、こーいうとこに来たかったんだよ!!」真弘は周囲を見回すと嬉々として叫び、そのまま珠紀を連れてトラックから降りた。確かに言われてみれば、そこは、以前真弘の言っていた『理想のアメリカ』に近い景色の場所だった。多分、アメリカの北……のどこか、なのだろう。でも、こんな誰も通らないような場所で降りてしまって、一体この先どうすれば……。不安になる珠紀をよそに、真弘は早速、野宿の支度を始めたのだった。トラックを降りたのは夕方だったから、二人で道路の脇にテントを張っているうちに、日は暮れてしまった。真弘と珠紀は、出来上がったテントの横に並んで腰を下ろし、沸かしたてのコーヒーを飲む。「あー綺麗だなー。……俺、こういうの、夢だったんだ」星の瞬く夜空を見上げながら、真弘は満足げに呟いた。「ちょっと前まで、現実になることなんてねえと思ってた……でも、こうしてアメリカ行きが実現してよ――ま、バイクは免許が間に合わなかったが。かわりに、お前が隣りにいるもんな」真弘はコーヒーを飲みながら、へへっと嬉しそうに笑った。「なあ珠紀、今夜は、あの星空を見ながら眠るんだぜ……」「……」珠紀は無言のまま、コーヒーをずずっと啜る。「……まあ、二人きりなんて、ちょっと照れるけどよ」「――先輩」珠紀は、アルミのカップを両手で持ったまま、やけにくぐもった声で呟いた。「なんだ?」「――今夜、二人で、あのテントの中で寝るんですよね」