向こうからの挑発に乗ることもなく、僕は淡々と九条さんの言葉に異を唱えていく。 もう向こうもそのつもりのようだから遠慮はきっといらない。 最初から確信をついていく作戦に僕は切り替えた。 「それより九条さん、あなたに聞きたいことがあります。 正直に答えて下さい。貴方は・・・・母を・・・殺しましたか・・・?」 とっくに覚悟を決めてここへ来たはずなのに、実際に自分の口から その言葉を告げてみるとその言葉の重みがズシリとのしかかり、 意図せずとも語尾が震える。陸に母さんの事故の話を聞かされてからずっと、ずっと僕はこの可能性を捨てきれなかった。 陸も言っていたけれど あの母さんが・・・おっとりして、それでいて慎重さは人一倍だった母さんが いきなり飛び出して車に撥ねられたなんて考えられなかった。 なら事故はなぜ起きた?もし交通事故でないとしたら?もし仕組まれていたことだったら? 僕の養子の件も全て九条さんが入念な計画をたてて仕組んだことだった。 母さんは九条さんにとって僕の素性がばれる最大の懸念材料だったはずだ。 不自然な帰国、不可解な陸との接触。きっと母さんのことも決して無関係じゃないはずだ。 静かに、でもそれでいて嘘偽りは許さないとプレッシャーを込めて 僕は九条さんと正面から見据えた。僕の圧に九条さんは眉ひとつ動かさない。 「思いつめた顔をして帰ってきて何を言うかと思えば・・・。 いきなりなんだい。そんな物騒な話。 私が君のお母さんを殺す?どこからそんな発想が湧いてきたんだい? 最近出演した刑事ドラマとかの影響なのかな?」 九条さんの微笑みは崩れない。余裕の表情だ。 でも僕だってこんなこと何の確信もなしに九条さん相手に言ったりはしない。 「九条さん、何故急に戻ってきたんです? あなたはいつも帰国するときは事前に連絡をくれていた。 でも今回は違った。何が貴方をそんな急がせたんです?」 そう。九条さんはいつも帰国する前に連絡を入れてきて、 僕はそれに合わせて部屋の準備や食材を買い足したりしていた。それはこの数年間絶対崩れることのない暗黙の了解だったのに 今回だけは違った。几帳面な性格の人間がこんな簡単に自分の中にある ルーティンを変えたりはしない。不自然すぎる。そして何より、今まで興味すら示さなかった陸への急な接触。 突然すぎた母さんの不審な事故死。点と点でしかないのかもしれない。 でもそれを繋ぐ線があるのかもしれない。 「急に帰国することもあるよ。急な変更なんて舞台にも人生にもつきものだ。 君もよく知っているだろう? それに私が君の母親を殺して私になんの得があるのかな。 天は私の大事な息子だ。そんな君を悲しませることなんてしないし。 傷つけたりなんてしない。分かってくれるね?」 そう、僕があなたの夢を叶える大事な願望器である限りは。でもあなたはそんな僕の願望器としての価値を損なう何かしらの可能性が 生じたら容赦なくそれを排除する。例外なく。もう僕には九条さんの言葉が白々しく聞こえて何もかもが嘘に聞こえてきそうだ 疑念を常に抱いて話すこと。 そうすることで僕は自分のペースを維持しながら九条さんとの話をさらに進めていった。 「えぇ、僕はあなたの大事な駒です。僕を直接的に傷つけることはしないでしょうね。 でも僕の経歴を傷つけるようなゴシップや揉め事は別でしょう。 九条さん、母はあなたに何か連絡をしてきたんじゃないですか・・・。 例えば・・・・天を返して下さい・・・とか。」 最後の方は僕の憶測。