少しの間の後、土煙の中で、ガエウスの馬鹿笑いが響いた。煙を吹き飛ばしそうなほどの、図太く大きな声。「……久しぶりに、死ぬかと思ったぜ。すげえスリルだった」 言葉通り危うく死にかけたというのに、ガエウスは笑いすぎて少し涙目になっている。相変わらず、規格外な男だった。怪我もなさそうなので、そのままガエウスを下ろす。「すまない。力の加減を間違えた」「いや、面白かった。今度、嬢ちゃんにもやってやれよ。たぶん喜ぶぜ」 シエスも変なところがある子だけれど、ガエウスほどではないだろう。空を飛んで喜ぶとは思えない。けれどシエスが無表情のままに空高く打ち上がっていく様子を想像して、つい笑ってしまった。「それに、ちゃんと収穫はあった。洞窟、見つけたぜ。もう遠くはねえ」 ガエウスの言葉に、驚いてしまった。あのドタバタの最中に、遠い地表を見極めるとは。なんだかんだでやはり、正真正銘凄腕の冒険者だ。 ガエウスは洞窟があるという方向を指差しながら、いつも通り笑っている。「あっちだな。……『靭』を使えば着地も耐えられそうだし、歩くのもめんどくせえから、次は洞窟に向けて投げてくんねえか?」 そして懲りずにまたおかしなことを言う。それを聞いて、僕の横でルシャが目を丸くしていた。「無駄なことに魔導を使わないで。そこまで離れていないなら、歩こう」 流石にこれ以上無茶をさせる気はなかった。なにかしくじって、誰かが怪我でもしたらたまらない。冷静になってみれば、ルシャの『奇跡』で怪我を直せても、痛みの記憶は消えない。それが戦闘時に、僕らの連携に一瞬の不具合を生むかもしれない。軽く考えるべきじゃない。笑うガエウスを見ていると、杞憂にしか思えないけれど。 とにかく、不満を言うガエウスを無視して、歩き出した。ダンジョンには予定通り着きそうだ。でも雰囲気はどこか緩んでしまって、いつもより緊迫した冒険になる気がしていたのに、結局いつもの僕たちだった。 隣を見ると、ルシャが静かに歩いているけれど、眼は少し笑っていた。まあ、ダンジョンに入るまでは、気を張りすぎていても仕方ないか。そう思って、後ろから聞こえるガエウスのいつものわめき声に、僕も結局また笑ってしまった。