そして――「心装励起」「……なに?」 空の口から出た言葉に、クリムトが思わず驚きの声をあげる。 まさか本当にここで心装を出すとは、と意外に思ったのだ。 そして、次の瞬間――「ぐッ!?」 全身を押しつぶさんばかりの重圧に晒され、クリムトの口からうめき声が漏れた。 クリムトだけではない。クライアも、そしてゴズも、同じような声をあげている。 黒くろの刀に朱あけの刃。空の手に顕現した新たな黒刀は、青林せいりん旗士きし三人をうめかせるだけの威圧感を放っていた。 驚愕はすぐさま警戒にとってかわられた。 クリムトは素早く幻想一刀流の構えをとる。数瞬前までの自分の考えが、ひどく的外れなものであったことに気づいたのだ。 そんなクリムトに対し、黒い心装を握り締めた空は静かに告げる。「手加減は不要。お前ひとりで相手をする必要もない。三人同時にかかってこい」 それは先ほどのクリムトの言葉に対する返答だった。 淡々と、あたかも「お前ひとりでは勝ち目はない」といわんばかりの口調に、クリムトの目がみるみる吊りあがっていく。「ほざくな。俺が相手をしてやるだけありがたいと思え。その増上慢ぞうじょうまん、叩き潰してやる」「そうか」 小さくうなずいた空は、ここで表情を一変させた。 唇の端を吊りあげ、ひどく冷たい声で言い放つ。「なら、お前から死ね――――喰らい尽くせ、ソウルイーター」 心装を『抜いた』瞬間、炸裂する閃影せんえい。 夏の陽射しに満ちていた邸宅の庭に、一瞬だけ夜が降臨する。心装ソウルイーターの力によるものゆえに、心装クリカラの炎でも払えない夜の闇。 視界を奪われたクリムトに避け得ない隙が生じる。 そのクリムトに向けて、心装を振りかざした空が躍おどりかかった。 袈裟けさがけに振り下ろされた一刀に、クリムトは流石というべき反応を見せる。 とっさに掲げた炎刀が空の黒刀を受け止めた。もし、空の武器がいつも腰に佩いている黒刀であれば、触れた瞬間に刀身が熔とけていただろう。 だが、今の空が握っているのは神殺しの竜の似姿にすがたたる刀。炎刀に熔とかされることなく、それどころか相手の炎を喰らってしまう。「な!?」 それを見たクリムトが驚愕の声をあげる。 ただでさえ不意をつかれ、不利な体勢でいたところだ。心装同士の激突でも敗れれば挽回の目はない。 均衡が崩れるのは一瞬だった。「殺シャア!!」「ぐ――があああッ!?」 渾身の力を込めて振りぬいた空の一刀が、クリムトの刀を弾き飛ばし、肩口から腰まで一気に切り下げる。 刀身から伝わる確かな手ごたえを感じながら、空は刀を振りぬいた勢いをそのまま次の攻撃につなげた。