後ろに居る大和からそんな声が聞こえたかと思うと、瞬間背後から伸びて来た手が目を覆った。「…見ないで。」見なくていいよ、と直後に続けた声が誰のものかわからない筈が無かった。「陸……何で…」 「へへ、お腹空いちゃって。」どうしてここに居るのかと問うと、夕食を食べずに眠っていた陸は少し困ったように笑って答えた。 耳に響く久方振りに聞いた明るいその声と、イヤホンから聞こえる哀しげな声の正反対さが心に刺さる。「…知らなかった、そんなの撮られてたの。」ポツリと一言呟いた陸は今一体どんな気持ちだろうか。 天に見せるなと言われていたのに、結局見られてしまった。何だかもう合わせる顔が無い。「何か食べる物あるかなー。」不意に動画が終了したのを見届けてから陸はキッチンの方へ向かいながら、まるで何事も無かったかのようにそう口にした。「…あ…夕飯のうどんなら残ってるけど…」 「ホントだ。わーい、うどんだ。貰うね。」丁度食べたい気分だったんだー、と言いながらうどんの入った鍋を火にかける陸は余りにも普通で、三月の方が動揺してしまっているというのも我ながら可笑しな話だ。「わ…!」 「ッ…どうした?陸…」 「だ、大丈夫!ちょっとつゆが跳ねただけ…!」考え事をしながら少しぼんやりしているとキッチンの方から陸の短い声が聞こえて、驚いて勢いよくソファから立ち上がり駆け寄ると、言葉通りつゆが跳ねただけのようで一先ず安堵した。 一体どうすれば温めているだけでつゆを飛ばしたりできるのかと考えつつも、まぁ陸ならやりかねないなと思った。 しかし、手を水で冷やしながらはにかむように笑う陸の表情を見ていると、いつものドジでは無く、平気そうに振舞ってはいたがやはり内心では少し動揺していたのかもしれない。「…危なっかしいから俺やるよ。陸はそっちで大和さんと待ってな。」 「あ、ありがとう三月…。」