「っ!! 皆さん!! 帝都が見えてきました!!」 御者の言葉が聞こえた。 途端である。 先程までゴロゴロと聞こえてきた雷の音は消え、視界も徐々に暗さがなくなり、晴れていく。 それを確認するために、空を眺めてみると、ゲオル達は完全に暗雲を突っ切っていた。一方の怪物はというと、こちらに興味を無くしたかのように、遠ざかっていった。「危機は去ったみたいですわね……」「ああ。そのようだ。小娘、もういいぞ」「は……はい」 掠れた声で答えたエレナが床から手を離すと、馬車はゆっくり速度を落としていき、やがて元の速さに戻っていく。 エレナは疲れ果てたようで、そのまま床に倒れそうになったが、その瞬間、ゲオルが彼女の身体を支えた。「す、すみません……」「いや。初めて魔術を使ったせいだ。加えて先程の薬の副作用もあるのだろう。貴様が気にすることではない」「そう、ですか……あの、ゲオルさん」「ん? 何だ」「……私、ちゃんと役に立ちましたか?」 その一言に、ゲオルは虚を突かれたかのような顔になる。 ……が、すぐにいつもの表情へと戻り、エレナの問いに答えた。「遺憾ながら、今回は貴様に助けられた……礼を言っておく。助かった」「良かった……私、いつもゲオルさんに、助けてもらって、ばっかり、だから……」 そう言って、エレナは眠りに入った。顔色や脈から考えて、初回の魔術使用の反動と増加材の副作用、それ以外の異状は見受けられない。 それを確認した後、ゲオルはエレナの寝顔を見ながら、ひっそりと呟く。「ふん。何がよかっただ……貴様にとって、ワレは―――」 その後は、誰にも聞こえることがないよう、本当に小さな言葉をゲオルは口にしたのだった。