俺は今まで好きだ、なんだと散々思っていた相手にそう言った。 俺は自分なんかを好きになってくれた女の子にそう言った。 自分を変えられないのを知っているから。だから遠ざけることにした。自分が自分として壊れてしまう前に。 好きなはずなのに。俺と静香は考え方が全く違う。 俺は自分が犠牲になってでも大切な人間を助けたいと。そして静香は自分の所為で誰かが傷つくのは嫌だと。 だからこそ、これは必然だったのかもしれない。俺も薄々感づいていたが、先送りにしてきた。先送りにし、見ない様にしてきた。だが、もう目を背けるわけには行かない。「静香。今日でお前とは縁を――」 俺がそう言いかけた時だった。先ほどまでベッドに座っていたはずの静香の顔が俺に近づき、その唇を俺の唇に重ねた。唇の先からは静香を伝って何かが俺に入ってくるのがわかる。とても暖かくて、優しいもの。きっとそれは静香の俺に対する思いの様なものだったのだろう。俺がそれを理解すると静香は顔を俺の顔から離した。「それ以上は言わせませんよ‼ もしもまたその先を言うつもりなら、もう一度今と同じことをします」 依然混乱している俺を差し置いて、静香はそう宣言した。「先輩は理解していないかもしれませんが、私たちの考え方は最終的には同じなんです。結局は誰にも傷ついて欲しくない。私も先輩も結局はそういうことじゃないですか‼」 そう指摘され、俺は初めて気が付いた。「私は嫌なんです。そんな風に優しい先輩が、その優しさを誰にも理解してもらえずに苦しんでいる姿が」