「なるほどな」とユウは内心で呟いた。モーベル王国のダッダーンがユウと初めて会ったときは、まだ第三王子であった。三公爵家が、それぞれ第一から第三までの王子を支持していたのだろうと。その結果、見事ダッダーンを支持していたデヴォンリア公爵家から王妃が選ばれ、権力争いに勝利したのだとユウは考える。王妃の周りにいる令嬢たちは、デヴォンリア公爵家の派閥の貴族か、側室といったところだろうと。「違いますよ」 ユウの心を見透かしたように、アドリーヌが囁く。「サトウ様はお優しいですね。魑魅魍魎が跋扈する王宮内が、どれほど醜いのかを知らないのでしょう」 暗にユウは甘いと窘めるようだ。「三公爵家は王位継承権を持つすべての方々へ、自分の息がかかった者を送り込んでいます。ですが唯一、ダッダーン陛下だけはデヴォンリア公爵家からしか送り込まれていません」 インピカに頬ずりしながら話すアドリーヌのメガネがずれる。「王妃様ですよ。あの御方が、他家の手出しを許さなかったのです。言葉にするとなんてことはございませんが、これは信じられないことなのですよ。いくら王妃様がデヴォンリア公爵家の出とはいえ、他の二公爵家や自派閥の貴族を押さえつけるなど……」「なぜそんな真似を?」「陛下を愛されているからです」 冗談かと思うユウであったが、アドリーヌの顔はいたって真面目である。「サトウ様の仰りたいことはわかります。そんな王妃様が、なにようでネームレス王国へ足をお運びになられたのかが知りたいのですね?」「ぐふふっ」と下品な笑い声を漏らしながら、再度アドリーヌはユウの耳元へ顔を近づけ――「王妃様は、陛下の浮気を疑っておられるのです」 ――と囁いた。「浮気? ダッダーンと誰がですか?」「ですから~。ぬふふっ。陛下とサトウ様のですよ」「俺は男ですよ」 なにを言っているんだこの人はと、ユウはアドリーヌを見る。 王侯貴族などの――いわゆる権力者と呼ばれる者たちが、同性や少年に愛を求めることはそれほど珍しいことではない。ないのだが……それをユウに理解しろというのは無理があるというものだろう