淡々と話す千の言葉を聞くだけで、怒りと恐怖で体が震えそうだった。 自分の知らない世界が次々と広がっていくようで、それは天と出会ったことでの喜びだったり将来への楽しみだったりもするけれど、こう言った闇の部分も比例して現れる。 天の大切にする双子の片割れが、今まさにどこかで辛い思いをしているのかと、そう考えるだけでと焦燥感が楽を襲う。 「…千さん、その裏ルートで陸がどこに売られたのか、調べることは出来ませんか…?」 「流石に自分から闇取引の場に乗り込むわけにはいかないからすぐに調べるのは無理があるかな…。」 「……ですよね 」 「でも、色んな知り合いから情報を貰って、その集めた情報で行方を探ることは出来る。」 「…っ本当ですか?!」 「ただ… 」 「ただ?」 「楽くん、この貸しは高いよ?」 「……はい、覚悟してます。」 冷たく注がれる千の眼差しに、負けじと強い目で楽は頷く。 その答えに満足したのか、千は楽しそうにワインを口にした。「あ!ユキいたー!もー、急にどこか行っちゃうからモモちゃん探したぞー!」 「ごめんごめん、モモ。ちょっとマスター同士で内密に話すことがあってね。」 「なぁーにー?モモちゃんは聞いちゃいけない話?」 「まさか、そんな事ある訳無いだろう?モモにも協力して貰うことがあるんだ。後で話すよ。」 「百さん、こんにちは。先ほどお見かけしなかったのでご挨拶出来ずにすみません。」 「やっほー龍!ごめんねー!ちょっと体調崩しちゃったドールがいてさ!」 ノックもせずに思いっきりドアを開けて入ってきたのは、百と呼ばれる青年だった。 ニカリと笑う顔が男らしいのに愛嬌があり、頼りがいのありそうな雰囲気なのにどこか儚げな…そんなアンバランスさを持つ青年は龍之介を見るなりすぐさま近寄ってきて隣に座った。 「…?あの…」 「あっれー?なんか見たことないイケメンがいる。新人?」 「百さん、こちらは俺の友人で八乙女楽と言います。最近ドールを迎え入れて、今日初めてこちらに来ました。」 「初めまして。」 「えー!君があの八乙女楽ー!?良い男ー!ユキには負けるけどね!」 「こらこらモモ、失礼だろう?」 きゃはは!とまるで女の子のような笑い声を上げる百は新しいオモチャを見つけたと言わんばかりに楽の隣に来てジロジロと見回した。 「ねぇねぇねぇ、スーパーアイドルってどんな感じ?やっぱ大変なんだろうねー!抱かれたい男No.1だもんね!カッコいいなぁー!」 そう言って楽の顔を触ったり腕を触ったり、男からこんなにも激しいスキンシップを取られるのは初めてで、楽はどうしていいのか分からず「あ、あの…ちょ、百さん…」と頼りない声をあげた。