「夢を・・・見るんです」 丸椅子に座り、優しい声と笑顔で話を聞いてくれる医師に、陸が話したのは毎晩見る夢の話だった。「夢?」 「はい。誰かは・・・はっきりとは分からないけど…すごく優しい声で俺を包んでくれて。その声を聞くと、気持ちがとても和らぐのに、でも、同時にとても寂しさを感じるんです・・・」怖くないよと、早く戻っておいでと、励ましてくれる優しい温もりと、歌声。 よく知っているはずの、でも今はきっとそれがありえない人。 まだその名を口にしようとすると辛くて、胸が苦しくなってしまうのに、それでも夢に似たような影を見てしまうのは、自分の願望が引き寄せているからなのだろうか・・・(有り得ないのに・・・。だって俺は、あの人に捨てられたんだから・・・)それを思うと、また心臓がトトトっと早くなって息苦しさを覚えてしまう。 怖くて、ぎゅっと胸を抑えて落ち着けようと呼吸を整える。 医師はそんな陸の様子を見てうんとひとつうなづくと、「七瀬くんは、歌うのが好きかい?」そう尋ねてきた。「好き・・・です」はっきりと答えられなかったのは、不安があるから。自分は歌ってもいいのか。 自分が歌うことで、誰かに迷惑をかけないか。 そもそも、歌いきることができるのか。 もし、歌っている途中で発作を起こしたら? その事で誰かに迷惑をかけたら?「はっ・・・は・・・」考えているうちに、息が苦しくなってきた。 どうしよう。怖い怖い怖い怖い・・・・・・「ひくっ・・・」 「七瀬くん、七瀬くん落ち着いて・・・」 「や、だ、やぁ・・・怖い・・・」 「落ち着いて。よく見て。ほら、誰も君を責めたりしない。苦しいのは、じきに治まる。大丈夫。大丈夫…」 「はぁ・・・、はっ、う・・・」 「うん、ほら。大丈夫」 「だい・・・じょぶ・・・」 「そう。大丈夫・・・」 「ひうっ」