その後、俺は病室に招じ入れられ、一対一でイリアと向かい合った。 母親セーラ経由で俺の話を聞いたイリアが、直接話したいと望んだからである。セーラ司祭も席を外していた。 イリアは寝台の上で上体だけ起こしている。 その視線は俺ではなく、窓の外に向けられていた。俺から見えるのはイリアの顔の左半分だけ。その姿勢を保ったまま、イリアは無愛想な第一声を放った。「で、どういうつもり?」「それだけでは何と答えたらいいのかわからないぞ」 俺は肩をすくめてイリアに応じる。 その実、内心でほっと胸をなでおろしていた。 病室に入るまで、俺の頭の中ではあの村で見た患者とイリアの顔が重なっていた。だが、こうして間近で接してみれば、態度も声音も俺の知っているイリアそのもの。彼女の第一声は、俺の脳裏にこびりついた幻影を見事に掻き消してくれたわけで、それゆえの安堵であった。 そんな俺の内心を知る由よしもないイリアは、不機嫌そうに語を続けた。「白々しいわね。どうして恨んでいる私を助けるのかって訊いてるのよ。私が死んだところで、あなたは喜びこそすれ、悲しんだりしないでしょうに」「ひどい評価だな。まあ否定はしないが」「ふん。それで?」「お前に思うところがあるのは事実だが、お前が死ねば子供たちや司祭殿が悲しむ。あの人たちが悲しむ姿は見たくない」「……ふん」 視線を窓の外に固定したまま、イリアはこちらの論法を小ばかにするように鼻で笑う。 次にイリアが口を開いたとき、話題は別のものに移っていた。「ラーズから大体の話は聞いているわ。今ではミロもあなたのクランに加わったのですってね?」「ああ、そうだ」「あのミロが、ね。スキム山で命を助けられたとはいえ、ずいぶんと素直にラーズと別れてあなたにくみしたものだわ。あれだけラーズをたきつけて、あなたにけしかけていた人が。あれだけラーズを甘やかして、私を遠ざけていた人が」