三度目のループ。 私は、アイドリッシュセブンが結成される二年ほど前の時間軸に降り立った。 彼をモンスターにしないために必要だったのは、もっと根底の問題を解決すること。 彼を導くことができるのは……魔王に成り果てた私じゃない。 『救世主』であり、『天使』と呼ばれた、彼だけだ。「……キミが、七瀬陸の友人? 突然事務所に押し掛けて、デビュー前のアイドルに会わせろなんて、非常識極まりないね」 八乙女事務所の小会議室、私は16歳の九条天と向き合っていた。 「大事な話があるんだってね、簡潔に言って」 氷点下の視線を向けているつもりでも、私が知っている九条天よりも幼いその視線はどこか愛らしくて、少しだけほほえましい気持ちになる。とはいえ今の私だって15歳で、彼より年下であることには変わりないのだけれど。 「では……簡潔にお話しますね、九条さん。あなたの弟……七瀬陸は、数年後、病で亡くなります。そして……彼を慕ったファンたちが次々と、自殺する。よくない社会現象が起こります。あなたたちTRIGGERが尽力し、苦労の果てに築き上げようとしていた新しいアイドルの時代は、あなたの双子の弟によって幕を引かれるんですよ」 私の話に、九条さんは綺麗な瞳を丸くして、それからため息を吐いた。 「……キミの話はまるでおとぎ話みたいだ」 「でしょうね。ですが、本当です。証拠に、今の私が知りえない情報をお話ししましょうか? TRIGGERのデビューシングルのタイトルも、売り上げ枚数も、私は答えられますよ。あなたが弟のことを、本当はどう思っているのかもね」 「……いいよ、言わなくて。キミが嘘を吐いてないってことは、分かるから」 「じゃあ……」 「……協力するよ、和泉一織。ボクはなにをすればいい? 大事な弟を『怪物』にしないために」