「陸」 三月が呼びかけるが、もちろん返事はなかった。すでに泣き腫らしており、目は真っ赤だった。三月だけではない。IDOLiSH7メンバーのほとんどが、似たような顔をしていた。 「……なあ、なんでそーちゃんとヤマさんは、平気なの」 唯一目を腫らしていないふたりに、環は問いかけた。悲しくないのだろうか。かつての仲間を、友人を失ったのに。 「……平気だと思うか?」 大和が静かに言った。平気なわけが無いのだ 。それは壮五も同様で。 「泣くことは帰ってからでも出来るんだ。……陸くんの前で笑えるのは、これがさいごだろう」 それは、天とのあの日の約束でもあった。陸が息を引き取ったあの夜、あまりにも静かすぎる陸の部屋へ、たまたま起きていた大和と壮五で行ったのだ。ふだんなら呼吸音とか、機械の動く音がしているのに。 コンコン。ノックして入室する。……こんな夜なのに、電気がついていた。つけたままで眠ってしまったのだろうか。 『……おい、九条。寝てるのか?』 『……起きてるよ』 そこで壮五が気づいた。在宅酸素機の電源が入っていないことに。まさか。 『九条さん、陸くんは』 『いまさっき、息を引き取ったよ』 どうしたんですか、と壮五が言い終わる前に天は言った。息を引き取った……死んだ、のか? 『……穏やかな顔でしょう。……ボクも、もういいかな』 微笑を浮かべていた天の顔がみるみる泣き顔に変わる。天は穏やかな表情を浮かべて眠った陸を強く抱きしめて、静かに涙を流した。大和と壮五は呆然とそれを眺めていた。まだ、時間はあったんじゃなかったのか。天の鼻を啜る音だけが響く室内でふたりは立ち尽くすしかなかった。早すぎるよ。何度思ったことか。 どれくらい天が泣いていたのかはわからない。天は腕をほどいて、そっと陸を寝かせた。そしてこちらを見る。 『……二階堂大和。合同ライブ、千さんに提案してくれたのはキミなんだってね。……ありがとう』 『……リクの、ためだ』 『……逢坂壮五も、ありがとう。陸の声がおかしいって最初に指摘してくれたのは、キミだったって陸から聞いたよ。……おかげで、病院に行ってくれたんだ』 『そんな、……ボクは、なにも』 ふふ。天は、すこしだけ笑みを浮かべた。 『……陸は最後に、笑って、おやすみって言ったんだ。……あの子は、みんなの笑顔を望んでる』 『……どういうことだ』 『……お別れのときは、陸に向かって笑ってほしいんだ。……絶対、泣かないであげて』 陸が悲しむから。天は陸の頭を撫でながら言った。にわかには信じがたいが、──陸なら、言いそうだ。 『……わかりました。……約束、です』 壮五が小指を差し出してくる。天は迷わず自らも小指を差し出して、壮五の指と絡まる。大和も倣って、3人は約束をした。陸とさよならするときは笑顔で。ゆびきりげんまん、うそついたら。「……俺たちが約束、破ったらだめだよなあ」 陸が悲しむから。