そうだよな。 佳世は、俺だけじゃなく、白木さんも不幸にした。 俺が味わったこの屈辱を、白木さんにも与えるような行為をした。 なぜだろう。 あらためてそう考えると、そのことが俺の中でとてつもない怒りに変わった。 俺よりも白木さんを不幸にしたことの比重が、やたらと大きかった。 ──もうこいつらのことを許せるわけもない。「佳世、おまえさっきから俺にしか謝ってないけど、おまえさ、池谷にも彼女いるって知ってるよな?」「!!!」「おまえたちのやってる行為は、その彼女も不幸にしているってこと、わかってるんだよな?」「あ、あああ、ごめんなさいごめんなさい、浩史……くんが、その彼女とは、キスもなにもないって……だから問題ないって……」「いや、問題ありまくりだろ。まだ別れてないんだし」「で、でも、そのうち別れるって……佳世のほうが好きだから、俺は佳世を抱きたいって……」 土管! 俺は思わず自分の机を蹴っ飛ばした。 足がめっちゃ痛いがそれよりも怒りのほうが大きい。アドレナリン飽和状態だ。あ、机の横がへこんだ。あとで損害賠償請求しとこう。 俺の顔はその時、おそらく鬼の形相になってたと思う。 公園で号泣していた白木さんの姿が、あまりにも哀れすぎたのを思い出してしまったから。「おまえらなあ! 本当に順序が逆なんだよ! それなら俺と別れて、池谷も彼女と別れてからそういうことをするのが筋だろうが!!!」「あ、あああ、あああああ、ご、ごめんなさいごめんなさい怒らないでごめんなさい怖い顔しないでごめんなさい許してくださいごめんなさい」「俺に対する責任は佳世にも取れるだろうがな! どうやって白木さんに対して責任取るんだよ! 取れないだろ、取れないだろうが!!! これほどのバカとは思わなかったぞ!!! 俺たちと無関係な白木さんまで不幸にしてんじゃねぇよ!!!!!」 今日一番の俺の怒声に、佳世もビビってしまったようだ。ガタガタと震えている。 思わず俺は佳世の股間を確認してしまった。よし、漏らしてはいないな。 さて続きだ。 ………… あ。 白木さん、とか固有名詞出しちゃった。ま、いっか。そこに気づいてはいないようだし。 でも、少しだけ気まずいから、トーンダウンさせとこっと。「……とにかく、大事なのはけじめだ。おまえも自分が悪いことしたと思っているなら、すべてにけじめをつけろ。話はそれからだ。詫びるつもりがあるなら、行動で俺に見せてくれ」 別れるという意思を込めた俺の発言。 だが俺がかつて見せたことのないさきほどの激情にやられたようで、佳世は無反応だ。「安心しろ、おまえの家には今回のことは言わないでおく。表面上はただの幼なじみに戻るだけだ。もう帰れ。あ、あと一つだけ忠告しとく。妊娠検査と性病検査はしといたほうがいいぞ」 俺の最後の気遣いともいえる言葉に佳世は力なくうなずいて、ようやくその場を去っていった。小説書くのと一緒で、修羅場って体力勝負だな。もぅマヂ無理。くりかえすぞ、もぅマヂ無理。 ………… 佳世とは、これで終わり……か。 ほろり。 ああそうだよ、威勢のいいことを言っておきながら、どこまでも未練たらしくてすまんな。でもな、一緒に過ごした月日が当初の予想以上に重かったんだ。 ──俺はラオウにはなれなかったよ