(あー......やっぱり、そうなっちゃうよな)双眸を瞠ったまま硬直してしまった石田をチラリと横目で見やって、尚人はこっそりため 息をついた。予想外のインパクトがありすぎて、石田としてもどう対処すべきなのか思い悩んでいるに 違いない。気持ちは、わかる。石田的には、悪質なドッキリだと言われたほうがまだマシなのかもし れない。「ナオ?」 名前を呼ばれて尚人は雅紀に視線を戻す。まずは、仕切り直しだろう。 「えーと、石田さん。兄です」 なんだか、今更感がありすぎるが。ここをクリアしてもらわなければ話が進まない。 雅紀はサングラスを外して、軽く頭を下げた。 「初めまして。篠宮雅紀です。弟がお世話になりました」いたって簡潔明瞭である。フルネームを名乗ることで、雅紀は今が完全なプライベートで あることを強調する。はっきり言って。今回、実務的なことは加々美と尚人の間でやり取りされて、雅紀は一切 口出しをしていない。雅紀を間に挟んで伝言ゲームのようになってしまっては時間の無駄であるし、まかせると 決めた以上黙って見守ることが一番大事だと思っていたからだ。 信用と。 信頼と。 ......覚悟。 あれこれ口出しをしたくなるのは山々だったが、尚人によけいなプレッシャーをかけたく なかった。 そんな雅紀も、ここで『アズラエル』の関係者と鉢合わせをするとは思ってもいなかった。いや、尚人に早く会いたくてそこまで深く考えていなかったと言うべきか。 (マズったな) 一瞬、それが頭を過ぎり。 (まぁ、いいか)すぐさま気持ちを切り替えた。いろいろバレまくりになってしまったのはしかたがない が、これは雅紀としてもあくまでイレギュラーなことなので。 「......石田と申します。このたびは、こちらの不手際でご迷惑をおかけしてしまい大変申し 訳ございませんでした」深々と頭を下げる石田に、雅紀はひっそりと苦笑いを漏らす。先ほどからの様子を見れ ば、どうやら、石田が自分たちの関係をまったく知らなかったのは丸わかりであった。あえて、加々美が何も言わなかったのか。尚人が黙っていたのか。本名を名乗っても石田 がスルーしてしまったのか。あれこれ疑問は浮かぶが、それはあとから尚人に聞けばいいこ とである。 「いえ。加々美さんから事情は伺っていますので」 「はい。ありがとうございます」顔を上げた石田はいくぶん固い表情だったが。 「弟は、しっかりやれていたでしょうか?」 雅紀に問われて、いつものペースを取り戻す。