いっそセーラ司祭を俺のクランに勧誘できれば話が早いのだが、メルテのように辺境にある村にとって、高徳の奇跡の使い手なんて望んでも得られない人材だ。 その使い手が村を出て行くことになったら、大変な騒ぎになるのは目に見えている。俺が非難されるだけでは済まないだろう。 いや、それ以前に、教会の責任者であり、孤児たちの養育者であるセーラ司祭が勧誘に応じるとは思えない。残念だが、この案は没に―― ……いや、もう一回待て。それなら代わりの奇跡の使い手を見つければいいだけの話では? あと、孤児である三人組も俺が引きとってしまえばいい。幸い、今の家は無駄に大きいから部屋は余っているし、子供の三人や四人、養えるくらいの稼ぎはある。 あ、でも、この村には旦那さんの墓もあると聞いたし、やっぱり無理かなあ……いやいや、諦めたらそこで試合終了ですよ。 そもそも、今回はラーズとイリアの仲たがいに付け込むべくやってきたのだ。メルテの村に恩を売ることができたのも成果と言えなくはないが、もうちょっと具体的な成果が欲しい。 俺はセーラ司祭に話しかける。「あの、つかぬことをうかがいますが」「はい、なんでしょう?」「酢漬けということは、けっこう日持ちしますか、この肉?」「そうですね、それなりには。ただ、これから暑くなってきますから、早く食べるに越したことはありません――今回の場合はいらぬ心配ですけれど」 セーラ司祭がクラウ・ソラスを見てくすりと笑う。 まあ、たしかに今回調理した分は完食間違いなしだろう。というか、たったいま完食した。 ぷぅー、と満足げな吐息をはきながら樽から顔をあげたクラウ・ソラスが、俺に気づいて目をまん丸にしている。 すぐに申し訳なさそうな素振りを見せながら顔を寄せてくるが――うお、お前顔中が酢まみれじゃないか。樽に顔つっこんで食べてたんだから当たり前だけども。「そんなに美味かったのか?」「ぷぎ! ぷぎ!」 懐から取り出した手ぬぐいで汚れを取りながら訊いてみると、クラウ・ソラスはどたんばたんと尻尾を地面に叩きつけながら盛んに叫ぶ。