ある会社に、一人の男が入社してきた。社の関系者の口利きとかいう特殊なものでなく、入社试験に合格という平凡(へいぼん)な结果によってだった。
人のよさを絵に描いたような颜をしていた、采用かどうかを决める试験委员たちは、みなその男にいい点をつけた。形容すれば、この男に限って、いかなる环境におかれようと决して悪事(あくじ)はやらないだろう、といった颜つきだったのだ。
ほかの入社志愿者(しがんしゃ)たちには、なんとなく抜け目のなさ(精明)みたいなものがある。そういう连中のなかに混ざっているので、その男は特にそう思えたのかもしれない。
また、试験委员たちは、その男があんまりに善良そうなので、落第(らくだい)点をつけるのをためらったのかもしれない。こいつを入社させないのなら、自分にも在社している権利はないのではないかといった気分。
入社したあの男は、営业部に配属された、そして、集金(しゅうきん)の仕事を担当させられた。こいつなら集金をごまかしたりしないだろう、との印象によるものだった。
まもなく、男は一周间の出张を命じられた。集金のためいくつかの取引先(顾客、交易戸、往来戸)をまわるのだが、そのなかに问题のある店が含まれていた。社员が出かけていっても、うまく丸め込まれ(连哄帯骗)、わずかな集金で帰らざるをえないという、扱いにくい主人のいる店だ。
男は元気よく出かけていった。上役は、期待と不安を持って见送った。一周间がたち、男は帰社して报告した。
「集金をしてまいりました。。。」
上役はうなずいて闻き、感心した。前任者たちがてこずって(梃子摺る、棘手、为难;梃子摺らす、使动)いた店から、売挂金(うりかけきん)(赊款,欠款)のほとんどを回収してきたのだ。
「これはすごい。前例のない手腕の主だな。よくやった。で、ほかの店は。。。」
「いえ、今回はこれだけです。あとは次の出张のときに。。。」
その返事の言叶に上役はとまどい、何回も闻きなおし、やっと事态(不好的情况)を知り、肝をつぶした(大惊)。その男、一轩(いっけん)(一家、一所)の集金に一周间を费やした(ついやす)のだ。なんということだ。
「信じられん。。。」
上役は怒るのも忘れた。そんなことをされては、収支(しゅうし)がつぐなわなくなる(偿う)。上役はひとりになってから、もしかしたらこいつ、寄り道をして游んでたのじゃないかと疑った。そこで、たしかめるべく、、その取引先に电话を入れてみた。
「先日、うちの社员がうかがって。。。」
すると、相手の返事。
「いやあ、こんどの社员のかたは、じつに立派ですな。あんなまじめな方は、はじめてです。负けました。酒席への招待のたぐいはいっさい受け付けず、こっちの烟(けむり)に巻こうとする作戦にもごまかされず、ひたすら诚心诚意(せいしんせいい)、店に日参(にっさん)(毎日参拝;为了某种目的毎日到固定的地方去)なさいました。こっちとしては、全额(ぜんがく)を払わずにいられなくなりました。あんな热意のかたまり(极端。。。的人)のような人はいない。いい社员ですな。。。」
游んでいたのではなく、その店に通いつめて(紧密往来、连続往来)いたことが判明した。社员をほめられたのにもかかわらず、上役は复雑な心境だった。非能率きわまることではないか。ふと、いやな予感をおぼえた。
つまり、その男の仕事ぶりは、それ以后もずっとそんな调子だったのだ。ひとつのことに取り挂かると、それに心から没入(ぼつにゅう)してやり遂げ、あとに好印象(こういんしょう)をのこす。それはそれでいいことなのだが、给料分(きゅうりょうぶん)の働きになっていない(那样好是好,可没有干出与工资相称的工作来)(ぶん接在名词下、表示与该名词所示的事物相当、相称)。新入社员に対して 「ほどほど(适当地、恰如其分地)にやればいいのだ」とも言えず、上役は头を悩ました。
考えたあげく上役は、その男に别な仕事をやらせることにした。
「集金はべつな者に代わらせる。君には新规の取引先开拓のほうを頼みたい」
「はい、社のためであれば、どんなことでも喜んでやります。そのような重要な分野にまわしていただき、心の引き缔まる(精神紧张、不松弛)思いです」
男は张り切って答えた。お前は无能だから交代させるのだとの意味なのだが、それが通じないのか、いやな颜ひとつ(=さえも)しない。
かくして、たずさわる分野は変わったが、仕事ぶりはやはり同様だった。怠けているわけでなく、新しい取引先を确実に开拓はするのだから、それがまことにゆっくりなのだ。社が支払う给料に见合っていない。
だが、当人(とうにん)は毎日、元気に街へ出てゆく。
「社のために、心血を注いでがんばります」
と大声であいさつをして出かける。事実その言叶どおりに热心であり、当人もそれに生きがいを感じている。それだけに、始末が悪いのだ。热心とか诚実、正直さ(しょうじきさ)や爱社心、そういった徳目(とくもく)(徳育的分类细目、如忠、孝、仁、义、礼、知、信)と企业内での能率とが、彼の上において一致していないのだ。また、同僚に比べ成绩が上がらぬことで劣等感(れっとうかん)を感じてくれればいいのだが、残念なことに、そういうマイナス的な性格は持ち合わせていないらしい。
彼は社の金を使っての、いわゆる社用族(しゃようぞく)としての饮食はしなかったが、必ずしも酒を饮まないというわけではなかった。人づきあいが悪いということもなく、会社のかえりには同僚とともにバーに入ることもあった。
しかし、そこでもいささか変わっていた。酒を饮みながら、会社や上役や同僚の礼賛をやるのだ、酔いというものは、一般に上役やその场にいないやつの阴口(かげぐち)を诱発(ゆうはつ)するものだが、その男はそれをしなかった。しないというより、本质にできないのだ。
といって、それにいやらしさはなかった。そばに上役がいて、それにお世辞を言う図(ず)(表示情景、様子)となると、快い(こころよい)ものではない。しかし、彼は上役と一绪のときはお世辞を言わず。つまり常识と逆なのだ。
同僚たちは、上役のたなおろし(盘货,引申为一一批评缺点,挑毛病)をさかな(酒宴上助兴的节目或话题)に酒を饮みたいときには、その男を诱わなかった。
别に彼を嫌悪(けんお)し、仲间はずれにするわけでもない。麻雀(マージャン)のできないものをマージャンに诱わないのと、そこに差はなかった。また、やつを诱わなくても、彼はそれをうらみに持たないだろうとの安心感もあった。
彼はひとりでバーに行くこともある。そのときは、バーの女の子を相手に、会社や上役や同僚たちへのほめ言叶を、酔いとともにとどまることを知らず、喋り卷るのだ。心から楽しそうに。。。
酔ったときに人间の本性が现れるとすれば、その男の本性はまさに善(ぜん)といえるだろう。あまりに奇妙な酒癖(さけぐせ)なので、バーの女たちは珍しがり、いつの间にか社の连中にも伝わることとなった(=ことになった、表结果)。
となると、、彼への阴口はだれも言わなくなった。圣人のごとき人物を根拠(こんきょ)もなくけなすと、なにかたたり(祟る)がありそうではないか。彼の足を引っ张ってみようかなとは、谁も考えなくなる。自分を持ち上げてくれるやつの足を引っ张るなど、いくらなんでもできない(扯一个擡举自己的人的后腿,无论怎样也做不出来)。自分は上役の批判をやっているが、彼はやっていない。その当人に、火のないところに烟をでっち上げ(でっち上げる、捏造,编造,假造)、上役に向かっての彼に不利な告げ口(传舌,告密,搬弄是非)はちょっとできない。
また、仮にそれをやったとしても、どこに彼への同情者がいるかわからない。その上役がそうかもしれない。事実、上役もバーの女から彼が礼賛してくれているとの话しを闻き、内心でいい気分になっている。
というような次第で、その男は会社内において、周囲のだれからも爱された。爱されないまでも、反感を抱かれたりすることは决してなかった。
しかし、心情的にはそうであっても、冷静な判断でとなると、こんな困った人物もない。営利事业を构成する一员としての资格が、まるでないのだ。社の利益に少しもつながらないばかりか、小额とはいえ损をもたらしている。それなのに当人は、会社に身も心もささげているつもりで、大満足という快感にひたっている。
直接の上役はいらいらした。あいつだって、何らかの意味で社に贡献(こうけん)はしている、と考えたいのだが、いかに无形の要素を导入して计算してみても、そういった答えは出てこない。また万一(まんいち)、彼の性癖(せいへき)がほかの社员に伝染(でんせん)しはじめたら、とんでもないことになる。
内心では 「なあ、きみ。进むべき人生の道を误ったんじゃないか、もっとふさわしい职に移ったらどうだ」 と辞职を勧告(かんこく)したいのだが、そうもできない。本人を前にすると、その文句が口から出なくなる。何しろいいやつなのだし、かげでおれを褒め称えて(ほめたたえる)くれている男なのだ。それを追い出すほど冷酷にはなれない。
强引(ごういん)にそれをやったとしたら、さぞ寝覚め(睡醒后的情绪不好;想起过去做过的坏事良性受到谴责)が悪いことだろうなあ。(假如强行解雇他的话,一定会受到良心谴责的)。当人に落ち度(过错)は何もなく、爱社精神の権化(ごんげ)(化身)なのだ。彼に同情する人々が黙ってはいないだろう。労组(ろうそ)も騒ぐかもしれない。
また、首にしたりしたら、彼は失意と绝望(ぜつぼう)のあげく、ほんとに首をくくり(括る=钓る、缔める)かねない。彼の日常の爱社ぶりから、そんなふうにも思えるのだ。
それにしても、足手まといであることは确かだった。周囲の者は、どうも调子が狂いがちになる(総覚得周囲的人状况不対头)。また、彼がいるためにその课の成绩が落ち、ボーナスの额にも影响してくる。だからと言って、排斥する気にもなれない。人徳(じんとく)に対抗しうる力は存在しない。
なんと言うことなく、周囲ではひとつの结论に到达した(とうたつ)。祭り上げ(推崇,捧上台)。それができれば、一番いいのだがなあ。すべて丸くおさまる。そんなムードが発生し、具体的な运动になったりもした。他人を祭り上げるのなら、やましさ(疚しい、感到内疚)を感ぜずに工作できる。
そして、それが実験した。彼はこう言い渡された。
「君は课长に昂进(こうしん)と决まった」
「いえ、私はいまの地位でけっこうです。下积み(したづみ)(装在底下的东西;供人驱使能力发挥不出来的人,受人压迫翻不了身的人)で地味な仕事にはげむのがすきなのです」
彼は本心から答える。下积みでいては困るからこうなったとは知らずに。
「それは分かるが、社の决定には従ってもらわなければならぬのだ」
まったく异例な昂进だったが、异义はどこからも出なかった。彼はいなくなった课は、以前の调子に取り戻し、いわゆる顺调な进展という状态になった。
しかし、こんどはその人柄をよく知らずに彼を迎えた课が困る番だった。いい课长であり、仕事热心でもあるのだが、さっぱり能率が上がらなくなった。诘まらん报告书を、热心に検讨したりする。企业には、いい加减さ(适度,适可而止)が必要なのだ。そのため、その分(ぶん)を部下たちみんなで気を使って补わなければならない。余计な重荷(おもに)をしょいこんでしまった形だった。
と言って、批判の声も上がらないのだ。「こんなことでは困ります」と直言しようにも、彼の前ではその声が出なくなる。その人の人徳というやつだ。かげへまわっても言えない。彼への好意の持ち主は多いのだ。爱社の念に燃え、おのれをむなしく(空しい、虚しい)して部下をかわいがる、热意と诚意の结晶のような人物を、けなすのははばかられる(惮る)。彼への不満は、心の奥にしまっておく以外にない。
しかし、企业にとってはお荷物だ。各种のデーだにもとづきコンピューターの出した报告によって、このことを知った冷酷なる人事部は、一计を案じた。
おとり作戦を计画した。巧妙に
ある会社に、一人の男が入社してきた。社の関系者の口利きとかいう特殊なものでなく、入社试験に合格という平凡(へいぼん)な结果によってだった。人のよさを絵に描いたような颜をしていた、采用かどうかを决める试験委员たちは、みなその男にいい点をつけた。形容すれば、この男に限って、いかなる环境におかれようと决して悪事(あくじ)はやらないだろう、といった颜つきだったのだ。ほかの入社志愿者(しがんしゃ)たちには、なんとなく抜け目のなさ(精明)みたいなものがある。そういう连中のなかに混ざっているので、その男は特にそう思えたのかもしれない。また、试験委员たちは、その男があんまりに善良そうなので、落第(らくだい)点をつけるのをためらったのかもしれない。こいつを入社させないのなら、自分にも在社している権利はないのではないかといった気分。入社したあの男は、営业部に配属された、そして、集金(しゅうきん)の仕事を担当させられた。こいつなら集金をごまかしたりしないだろう、との印象によるものだった。まもなく、男は一周间の出张を命じられた。集金のためいくつかの取引先(顾客、交易戸、往来戸)をまわるのだが、そのなかに问题のある店が含まれていた。社员が出かけていっても、うまく丸め込まれ(连哄帯骗)、わずかな集金で帰らざるをえないという、扱いにくい主人のいる店だ。男は元気よく出かけていった。上役は、期待と不安を持って见送った。一周间がたち、男は帰社して报告した。「集金をしてまいりました。。。」上役はうなずいて闻き、感心した。前任者たちがてこずって(梃子摺る、棘手、为难;梃子摺らす、使动)いた店から、売挂金(うりかけきん)(赊款,欠款)のほとんどを回収してきたのだ。「これはすごい。前例のない手腕の主だな。よくやった。で、ほかの店は。。。」「いえ、今回はこれだけです。あとは次の出张のときに。。。」その返事の言叶に上役はとまどい、何回も闻きなおし、やっと事态(不好的情况)を知り、肝をつぶした(大惊)。その男、一轩(いっけん)(一家、一所)の集金に一周间を费やした(ついやす)のだ。なんということだ。「信じられん。。。」上役は怒るのも忘れた。そんなことをされては、収支(しゅうし)がつぐなわなくなる(偿う)。上役はひとりになってから、もしかしたらこいつ、寄り道をして游んでたのじゃないかと疑った。そこで、たしかめるべく、、その取引先に电话を入れてみた。「先日、うちの社员がうかがって。。。」
すると、相手の返事。
「いやあ、こんどの社员のかたは、じつに立派ですな。あんなまじめな方は、はじめてです。负けました。酒席への招待のたぐいはいっさい受け付けず、こっちの烟(けむり)に巻こうとする作戦にもごまかされず、ひたすら诚心诚意(せいしんせいい)、店に日参(にっさん)(毎日参拝;为了某种目的毎日到固定的地方去)なさいました。こっちとしては、全额(ぜんがく)を払わずにいられなくなりました。あんな热意のかたまり(极端。。。的人)のような人はいない。いい社员ですな。。。」
游んでいたのではなく、その店に通いつめて(紧密往来、连続往来)いたことが判明した。社员をほめられたのにもかかわらず、上役は复雑な心境だった。非能率きわまることではないか。ふと、いやな予感をおぼえた。
つまり、その男の仕事ぶりは、それ以后もずっとそんな调子だったのだ。ひとつのことに取り挂かると、それに心から没入(ぼつにゅう)してやり遂げ、あとに好印象(こういんしょう)をのこす。それはそれでいいことなのだが、给料分(きゅうりょうぶん)の働きになっていない(那样好是好,可没有干出与工资相称的工作来)(ぶん接在名词下、表示与该名词所示的事物相当、相称)。新入社员に対して 「ほどほど(适当地、恰如其分地)にやればいいのだ」とも言えず、上役は头を悩ました。
考えたあげく上役は、その男に别な仕事をやらせることにした。
「集金はべつな者に代わらせる。君には新规の取引先开拓のほうを頼みたい」
「はい、社のためであれば、どんなことでも喜んでやります。そのような重要な分野にまわしていただき、心の引き缔まる(精神紧张、不松弛)思いです」
男は张り切って答えた。お前は无能だから交代させるのだとの意味なのだが、それが通じないのか、いやな颜ひとつ(=さえも)しない。
かくして、たずさわる分野は変わったが、仕事ぶりはやはり同様だった。怠けているわけでなく、新しい取引先を确実に开拓はするのだから、それがまことにゆっくりなのだ。社が支払う给料に见合っていない。
だが、当人(とうにん)は毎日、元気に街へ出てゆく。
「社のために、心血を注いでがんばります」
と大声であいさつをして出かける。事実その言叶どおりに热心であり、当人もそれに生きがいを感じている。それだけに、始末が悪いのだ。热心とか诚実、正直さ(しょうじきさ)や爱社心、そういった徳目(とくもく)(徳育的分类细目、如忠、孝、仁、义、礼、知、信)と企业内での能率とが、彼の上において一致していないのだ。また、同僚に比べ成绩が上がらぬことで劣等感(れっとうかん)を感じてくれればいいのだが、残念なことに、そういうマイナス的な性格は持ち合わせていないらしい。
彼は社の金を使っての、いわゆる社用族(しゃようぞく)としての饮食はしなかったが、必ずしも酒を饮まないというわけではなかった。人づきあいが悪いということもなく、会社のかえりには同僚とともにバーに入ることもあった。
しかし、そこでもいささか変わっていた。酒を饮みながら、会社や上役や同僚の礼賛をやるのだ、酔いというものは、一般に上役やその场にいないやつの阴口(かげぐち)を诱発(ゆうはつ)するものだが、その男はそれをしなかった。しないというより、本质にできないのだ。
といって、それにいやらしさはなかった。そばに上役がいて、それにお世辞を言う図(ず)(表示情景、様子)となると、快い(こころよい)ものではない。しかし、彼は上役と一绪のときはお世辞を言わず。つまり常识と逆なのだ。
同僚たちは、上役のたなおろし(盘货,引申为一一批评缺点,挑毛病)をさかな(酒宴上助兴的节目或话题)に酒を饮みたいときには、その男を诱わなかった。
别に彼を嫌悪(けんお)し、仲间はずれにするわけでもない。麻雀(マージャン)のできないものをマージャンに诱わないのと、そこに差はなかった。また、やつを诱わなくても、彼はそれをうらみに持たないだろうとの安心感もあった。
彼はひとりでバーに行くこともある。そのときは、バーの女の子を相手に、会社や上役や同僚たちへのほめ言叶を、酔いとともにとどまることを知らず、喋り卷るのだ。心から楽しそうに。。。
酔ったときに人间の本性が现れるとすれば、その男の本性はまさに善(ぜん)といえるだろう。あまりに奇妙な酒癖(さけぐせ)なので、バーの女たちは珍しがり、いつの间にか社の连中にも伝わることとなった(=ことになった、表结果)。
となると、、彼への阴口はだれも言わなくなった。圣人のごとき人物を根拠(こんきょ)もなくけなすと、なにかたたり(祟る)がありそうではないか。彼の足を引っ张ってみようかなとは、谁も考えなくなる。自分を持ち上げてくれるやつの足を引っ张るなど、いくらなんでもできない(扯一个擡举自己的人的后腿,无论怎样也做不出来)。自分は上役の批判をやっているが、彼はやっていない。その当人に、火のないところに烟をでっち上げ(でっち上げる、捏造,编造,假造)、上役に向かっての彼に不利な告げ口(传舌,告密,搬弄是非)はちょっとできない。
また、仮にそれをやったとしても、どこに彼への同情者がいるかわからない。その上役がそうかもしれない。事実、上役もバーの女から彼が礼賛してくれているとの话しを闻き、内心でいい気分になっている。
というような次第で、その男は会社内において、周囲のだれからも爱された。爱されないまでも、反感を抱かれたりすることは决してなかった。
しかし、心情的にはそうであっても、冷静な判断でとなると、こんな困った人物もない。営利事业を构成する一员としての资格が、まるでないのだ。社の利益に少しもつながらないばかりか、小额とはいえ损をもたらしている。それなのに当人は、会社に身も心もささげているつもりで、大満足という快感にひたっている。
直接の上役はいらいらした。あいつだって、何らかの意味で社に贡献(こうけん)はしている、と考えたいのだが、いかに无形の要素を导入して计算してみても、そういった答えは出てこない。また万一(まんいち)、彼の性癖(せいへき)がほかの社员に伝染(でんせん)しはじめたら、とんでもないことになる。
内心では 「なあ、きみ。进むべき人生の道を误ったんじゃないか、もっとふさわしい职に移ったらどうだ」 と辞职を勧告(かんこく)したいのだが、そうもできない。本人を前にすると、その文句が口から出なくなる。何しろいいやつなのだし、かげでおれを褒め称えて(ほめたたえる)くれている男なのだ。それを追い出すほど冷酷にはなれない。
强引(ごういん)にそれをやったとしたら、さぞ寝覚め(睡醒后的情绪不好;想起过去做过的坏事良性受到谴责)が悪いことだろうなあ。(假如强行解雇他的话,一定会受到良心谴责的)。当人に落ち度(过错)は何もなく、爱社精神の権化(ごんげ)(化身)なのだ。彼に同情する人々が黙ってはいないだろう。労组(ろうそ)も騒ぐかもしれない。
また、首にしたりしたら、彼は失意と绝望(ぜつぼう)のあげく、ほんとに首をくくり(括る=钓る、缔める)かねない。彼の日常の爱社ぶりから、そんなふうにも思えるのだ。
それにしても、足手まといであることは确かだった。周囲の者は、どうも调子が狂いがちになる(総覚得周囲的人状况不対头)。また、彼がいるためにその课の成绩が落ち、ボーナスの额にも影响してくる。だからと言って、排斥する気にもなれない。人徳(じんとく)に対抗しうる力は存在しない。
なんと言うことなく、周囲ではひとつの结论に到达した(とうたつ)。祭り上げ(推崇,捧上台)。それができれば、一番いいのだがなあ。すべて丸くおさまる。そんなムードが発生し、具体的な运动になったりもした。他人を祭り上げるのなら、やましさ(疚しい、感到内疚)を感ぜずに工作できる。
そして、それが実験した。彼はこう言い渡された。
「君は课长に昂进(こうしん)と决まった」
「いえ、私はいまの地位でけっこうです。下积み(したづみ)(装在底下的东西;供人驱使能力发挥不出来的人,受人压迫翻不了身的人)で地味な仕事にはげむのがすきなのです」
彼は本心から答える。下积みでいては困るからこうなったとは知らずに。
「それは分かるが、社の决定には従ってもらわなければならぬのだ」
まったく异例な昂进だったが、异义はどこからも出なかった。彼はいなくなった课は、以前の调子に取り戻し、いわゆる顺调な进展という状态になった。
しかし、こんどはその人柄をよく知らずに彼を迎えた课が困る番だった。いい课长であり、仕事热心でもあるのだが、さっぱり能率が上がらなくなった。诘まらん报告书を、热心に検讨したりする。企业には、いい加减さ(适度,适可而止)が必要なのだ。そのため、その分(ぶん)を部下たちみんなで気を使って补わなければならない。余计な重荷(おもに)をしょいこんでしまった形だった。
と言って、批判の声も上がらないのだ。「こんなことでは困ります」と直言しようにも、彼の前ではその声が出なくなる。その人の人徳というやつだ。かげへまわっても言えない。彼への好意の持ち主は多いのだ。爱社の念に燃え、おのれをむなしく(空しい、虚しい)して部下をかわいがる、热意と诚意の结晶のような人物を、けなすのははばかられる(惮る)。彼への不満は、心の奥にしまっておく以外にない。
しかし、企业にとってはお荷物だ。各种のデーだにもとづきコンピューターの出した报告によって、このことを知った冷酷なる人事部は、一计を案じた。
おとり作戦を计画した。巧妙に
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