ナレーション「ここはVRMMORPG『アルヴヘイム・オンライン』の世界だ。VRMMORPGというのは、いわば現実さながらの体験ができるオンラインゲームのことだよ。さて、そんなゲームの中に、宇宙の魔法使いと呼ばれるプレッシャー星人が侵入したんだ。この星人は正に魔法のような不思議な術を使える。そんな怪物が入ってきたら、はたしてどうなってしまうんだろうねえ」草原の中を走っていく二つの影があった。長い杖を手にした怪しい男と、青い髪の少女である。「待ちなさい」と、アスナは逃げていく怪人に呼びかけた。振り返りざま彼女をちらりと見た怪人は、頬に薄笑いを浮かべたまま更に駆けていく。それに合わせてアスナも走るペースを上げた。ナレーション「この怪人こそがプレッシャー星人だ。実はついさっき、アスナの仲間たちの前に姿を現したと思うと、得意の魔法で皆を酷い目に遭わせてしまったんだよ。悪い星人だよね。それで怒ったアスナは、星人を追いかけている訳だ」しかし追いかけっこも長くは続かなかった。閃光、とまで称されたことのあるアスナは素早くプレッシャーの背中へ飛び掛かり、地面へ倒して逃げられないよう身体を押さえつけた。しかし、プレッシャーはまるで動じた様子もない。変わらず、悪魔のような笑みを見せていた。不気味さに、アスナが思わずたじろいだ瞬間、プレッシャーの杖が光った。怪しい光線が彼女を包んだ。途端、彼女の身体は緑色に輝く。アスナは悲鳴の混じった息を洩らした。すると、たちまちのうちにアスナの格好が変化してしまった。変わり果てた自分の格好を見下ろし、アスナは目を丸くして驚いた。「…このアバターは、まさか」腹部や手足を惜しげもなく露出させた、妖精のような格好。これはかつてアスナがオベイロンに捕らわれていた時に着ていた、ティターニアの衣装だ。ナレーション「星人は、不思議な力でアスナの心を読み、彼女の一番嫌がる姿を選ぶと、魔法を使ってアバターごと変化させてしまったんだ。なんともえげつないやり口だねえ」突然の変化がもたらした衝撃に、アスナは悲鳴のような声を上げた。そして全身に光を浴びせられ、また魔法をかけられてしまう。なんとその身体は、あっという間に小さくなってしまったのだ。ナレーション「星人の罠にはまってしまったアスナ。これじゃまるで着せ替え人形だね。さあ大変だ。アスナは自分じゃ元の大きさに戻れない、ピンチだねえ」アスナは周りを見回した。目の前の巨大な足に気づき、プレッシャーの巨体を上目で見て、一瞬唖然とした。そしてひっと悲鳴を上げた。しまった、敵の術にまんまとはまってしまった。これでは、一寸法師だ、と思った。武器のない一寸法師。大きくなれる見込みのない、哀れで無力な小人なのだ。ああ、嫌だ、元の大きさに戻りたい。「私を元の大きさに戻しなさい」とアスナは大声を張り上げた。動揺を悟られまいとしたつもりだったが、残念ながらその口調はやや上擦っていた。プレッシャーは声に出して嘲笑った。「はっはっは」その声の大きさに、アスナは小さな身体を飛びあがらせた。大きさが変われば、聞こえ方はこうも違うのか。自分が小さいことを思い知らされている気分だった。すると、プレッシャーが彼女に手を伸ばしてきた。自分を捕まえようとしていると気づき、アスナは悲鳴を上げ、あわてて逃げ出そうとした。戦ったところで勝ち目がないのは明らかであった。しかし恐怖のせいか思うように走れない。一方プレッシャーは悠々と歩いただけで、直ぐにアスナに追いついてしまった。アスナが全力で走った距離も、彼からすれば数歩で済むのである。その動揺が災いしたのか、ここでアスナは蹴躓いた。同時に、追いついたプレッシャーの杖が、アスナを埃のように跳ね飛ばした。身体が高く躍り上り、宙で一回転する。アスナはそのまま地面に身体を打ちつけた。「きゃああ…」プレッシャーは追い打ちをかける。倒れたアスナを足で一旦押さえつけると、すぐさま蹴り飛ばした。ティターニア衣装は必要以上に露出が激しい。彼女の透き通るような白い肌は地面を転がるうちにあっという間に傷だらけとなった。「やめて、助けて」アスナは泣き叫んだ。汗と涙で頬がずぶぬれになっていた。身を捩りながら、腹を押さえて蹲った。痛みで全身が痙攣し始めていた。これまでに体験したことのないような苦しみが彼女を襲った。