「──なるほど。たしかに、寝癖つけて駅前を歩いてるところから、後ろ前のジャージを着直すところまで、外も内も関係なく、間抜けな絵面撮られてるもんな。四六時中監視されてたら挙動不審にもなるし、いくら鈍感な陸といえどおちおち寝ていられない。メシも喉を通らなくなって、そりゃあ下手な嘘もつくわけだ」 「なんか三月、馬鹿にしてない?」 昨夜は、大事にはしたくないという陸の訴えに対して、アイドルとしてのイメージダウンにも繋がりますから、とツンデレ気味の一織や、どこでマスコミが嗅ぎつけてあることないこと書くか知れたもんじゃないしな、と芸能界慣れした大和が賛同すると、まあ本人がそう言ってるしね、と他の面々も頷いて、それ以上話し合うこともなく、気づいたらみんなで仲良く泣き寝入りしていた。 狭いスペースでぎゅうぎゅう詰めになって雑魚寝したせいで今朝は図体の大きい数名が節々をコキコキと鳴らして、背が高いと苦労するよな背が高いと、とは決して当人たちは言っていないのだが、隙間にすっぽり収まって良質な睡眠をとった七五三サイズの彼の被害妄想により、本日の和泉三月は少々扱いづらくなっていた。 IDOLiSH7はローテーションでひとりずつ引きこもっている、なんて面白い噂が立っては困る、というのが理由ではないが、午前中がオフの一織、三月、環、壮五、陸の面々はリビングに集まっていた。 午後からは全員そろっての雑誌インタビューと野外撮影が控えているため、移動時間も考えるとそこまでゆっくりとはしていられない。 ちなみに、土曜の本日、高校はお休みである。 普段なら仕事がない午前中はフライパンをお玉で叩かれるまで寝汚く布団から出ない環も、今朝は、首をコキコキさせて三月をイラつかせる要因となりながら、陸をガードするようについて回っていた。 さすがにトイレの中までついてきそうになったときは陸も困った顔をしたが、環なりの優しさだとわかっているため邪険にもできず、男同士だしまあいいか、と弱いおつむでいっしょに個室へ入ろうとしたのを、待てこらそれはおかしいでしょう、と間一髪引き留めてくれたのは、新興非公式団体『七瀬陸のおへそを保護する会』の幹部を務める一織で、相手が四葉さんだからまだいいものの九条さんや私だったらどうするんですか入れてくれるんですか見せてくれるんですか減りますよ減らしますよ!?と支離滅裂なお説教コースに突入しようとしたところを、漏れちゃう、と恥ずかしそうにもじもじし始めた陸にあえなく撃沈して中断した(未だに再開の目処は立っていない)。 すっかり元通りになったように見える陸ではあるのだが、やはりそれまでろくに食べていなかったらしく、急に食欲が戻るわけもなく、そのどさくさに紛れて苦手なピーマンを残そうとするのを、口うるさい誰かに見咎められる前に、と環が平らげてやると、その早業に驚きながらも、いたずらに成功した子供のように、たいそう楽しげに笑ってくれた。 ほのぼのとした時間は朝食を終えるまでで打ち切られ、食器を片付け並んで歯を磨いた後は、さっそく円卓会議の席に着いて、この段落冒頭の台詞である。「七瀬さんは今後、絶対にひとりで出歩かないでくださいね。ちなみに盗撮犯、いえ、これはもうストーカーですね、ストーカー犯について何か思い当たることは?」 「………」 「あるんですね」 「……言いたくない」 「はあ?この期に及んでそれが通用するとでも!?」 「一織くんストップ!昨日の今日だし、まだ話しづらいこともあるんだよ」 そっぽを向く陸の横顔をむにっと掴んで、その感触に一瞬たじろいだものの、意を決して向き合わせようと力を込め始めた一織の手を、壮五が自分の腕をハサミのようにして上下から挟み込み、引き離す。「陸くん、昨日は追い詰めるような訊き方をしてごめん。でも、大和さんが言っていた通り、僕たちも君の力になりたいんだ。ゴミはゴミ箱に捨てないといけないからね。可及的速やかに犯人を逮捕、ひいてはギッタギタの滅多刺しに、」 「そーちゃんもストップ!りっくんの前でブラックなとこ見せんな!」 「ご、ごめん。犯人を、こう、ぐしゃっと?こらしめてやろう。ね、陸くん」 度を越した危ない言い回しは懲りずに数回飛び出たが、いち早く察した一織が陸の耳を塞いでやっていた。 そろそろ彼は教育委員会から何らかの謝礼を受け取っても良いのではないだろうか。 「七瀬さんの健全な教育に差し支えるような発言は控えてください」 不安げな目でどうしたの?と訊ねてくる陸に、一織は、耳あてをやめたその手で頭をぽんと叩くことで何でもないですと答える。