俺は週刊誌で顔を隠すようにしながら、隈野線の車両に揺られていた。
車内はまだそれほど混んではいないが、学校帰りの制服姿がちらほらと目立つようになってきている。
とはいえ、ターゲットを捜すには、まだ時間が早い。人ごみに紛
れて逃げることもできず、行為を隠すこともできない。
その日、俺の目的は別にあった。――ターゲットは既に定まっており、不思議とその間に、別の獲物を狙おうという気は起きなくなっている。
迅(なにしろ極上の獲物だからな――それだけに、危険もある)
迅(いや、危険だからこそ、極上の獲物といえるのか)
スリルを楽しむのは危険だ――という声と、そもそも痴漢とはそういうものだろう、という声。
内心の二つの声は、そのどちらも正しい。これは危険な獲物だし――痴漢の快楽とは、危険の持つスリルと一体のものだ。
迅(それなら問題は、ターゲットの価値が、その危険に値するだけのものかどうか、ということだが――)
隊員A「報告いたします、マム。1番車両から4番車両まで、痴漢の報告はありません」
隊員B「同じく5番車両から9番車両まで、挙動の怪しい人物は見受けられません」
凜「わかった。だが油断はするな」