その後もいくつかの問いかけがあったが、そのすべてに俺は黙々と答え続けた。別段、隠し事をする必要もない。竜種を単独で討ち取ったのはまことのことか、と問われたときも素直に肯定した。 このとき周囲から沸き起こったのは感嘆のざわめきではなく、苦笑と失笑、あとは実力もないのに大言壮語を吐く者に向けた嘲笑だった。 それだけで鬼ヶ島における俺の立場が知れる。案の定、ゴズとベルヒ姉弟の報告はまともに受け取られなかったらしい。 だからこそ四旗が派遣されることになったのだろう。その四旗も結局、クライアの機転によって島に逃げ帰ったはずなのだが、連中の報告もこの場にいる者たちの耳には響かなかったとみえる。 再度討手うってを遣わすのも面倒だから、のこのこ母親の命日にやって来たときに化けの皮をはがしてやろう、とでも考えていたに違いない。 その推測を肯定するように、のそりと動いた人物がいた。「御館様、発言をお許し願わしゅう」「許す、ギルモア」 四卿のひとり、司徒しとギルモア・ベルヒが白髭はくぜんを揺らしながら進み出る。じろりと俺に一瞥いちべつをくれながら、ベルヒ家の当主はさも感じ入ったように滔々とうとうと語りはじめた。「ただいまの空殿のお言葉、まことにあっぱれ。単身で竜種を屠ほふるとは、まことに驚き入った武功武烈でござる。我が子クライア、クリムト、そして司馬たるゴズ・シーマが及ばなかったのも道理というものでござろう。黄金世代の恥さらしと呼ばれ、試しの儀すら超えられなかった御方が、わずか五年でよくぞここまでと感嘆を禁じえませぬ」 流れるようなギルモアの弁舌に和するように、居並ぶ廷臣の間から哄笑がわきおこる。俺への侮蔑が半分、鬼ヶ島において飛ぶ鳥落とす勢いのベルヒ家当主に向けた追従ついしょうが半分、というところか。 しかしまあ、いっそ清々しいくらい露骨に挑発してきたな。ここまであからさまに内心をさらけ出すのは四卿としてどんなものなんだ。 気に入らない相手に親しく話しかけてこそ、御剣家の『文』の頂点たる四卿の器量だと思うのだが――さすがに期待の養子二人を叩きのめされたのは、ギルモアにとっても我慢ならなかったのか。 あるいは、俺に対して罵詈雑言ばりぞうごんを向けることで次期当主のラグナにアピールし、なおかつゴズあたりを挑発しているのかもしれない。 どちらかといえばこちらの方が可能性が高そうだな。イシュカでクライアからちらと聞いた話では、ベルヒ家の内部はずいぶん寒々としているようだ。養子を傷つけられた意趣返しをしていると考えるより、自家の勢力拡大に勤いそしんでいると考えた方がしっくり来る。 そんなことを考えながら無言でいると、ギルモアが口角をあげて俺を見た。俺が五年前のように周囲に萎縮していると判断したのだろう、どこか悠然とした態度で言葉を続けた。