その夜。 いつもより早く沙也加がバイトから家に戻ってくると、由矩が来ていた。 ダイニングキッチンで、祖父母と談笑していた。 「こんばんは」沙也加はきっちり頭を下げた。 「おう、沙也加。おじゃましてるよ」由矩はニコリと笑い、沙也加に椅子に座るように促した。もしかしなくても、沙也加の帰 宅を待っていたのだろう。 「例の保険金のことなんだが......」 いつもの定位置に座るなり、沙也加はしゃんと背筋を伸ばした。 「雅紀たちも受け取ることになった」 「それって......お兄ちゃんも?」 「あー、もちろん」 (そう、なんだ?) ちょっと、意外な気がした。弟たちはどうでも、雅紀は絶対に受け取らないような気がしていたからだ。 (だって、あいつの生命保険だし) 沙也加だって、最初はアレルギーを感じた。だが。──あの人も、最後の最後で役に立ってくれたってことですかねぇ。 祖母がポツリとつぶやき。──どんな金でも、金は金だからな。 祖父が漏らした言葉に、沙也加は頭を切り換えることにした。 (そうよね。お金ってないと困るけど、ありすぎても腐るもんじゃないし) 祖母が言うように、死んでようやく役に立ってくれたと思えばいいのだ。