魔を植え付けられた女騎士達は、森の女王の次の言葉を待った。ティターニアは、美しくよく聞こえる声で、彼女達に使命を告げた。「貴女達の使命……それは、仲間を増やす事よ。白百合騎士団の城に戻って、他の白百合騎士団の女騎士達を私の花園に連れてきて、全員は無理でも、半数は連れてきなさい。貴女達は、白百合騎士団の幹部、多くの美しい女騎士達を私の元に誘ってくれるのを期待してるわ」 ティターニアは、アンリエッタ達の顔を見ながら、優しい笑みを浮かべる。森の娘達には、慈母の笑みそのものに思えた。ナタリーに至っては、大聖堂にあった絵画の、聖女が孤児に向けた笑みをそれと重ね合わせる程だった。 白百合騎士団の女騎士達、人間であった頃の仲間達をティターニアに捧げる。アンリエッタ達に躊躇いは無かった。森の娘に変容した3人は、白百合騎士団の女騎士を森の女王の花園に捧げる喜びに震えていた。「はい。ティターニア様」「森の女王の仰せのままに致しますわ」「ティターニア様のご期待に沿える様に頑張ります」「素晴らしいわ。……その姿で森を出ると面倒な事になると思うから、鎧は返しておくわね。」 ティターニアが手を叩くと、数人の森の娘達が玉座の間に入ってきた。彼女達が抱えているのは、アンリエッタ達が身に着けていたミスリルの鎧。最後に現れた森の娘……エリカは、右手に布袋を握っている。「これを、森の女王からの贈り物です」 亜麻色の髪の少女は、ナタリーに布袋を渡す。袋からは、金属と金属が擦れ合う音がした。「これは?」「その袋には、銀貨が入ってるから。替えの馬を買うのに使うといいわ。」 ティターニアの見ている前で、3人の元女騎士の森の娘は、銀色の鎧に着替え始めた。ティターニアは、花で飾られた玉座に腰かける。「ティターニア様、白百合騎士団の乙女達を、森の女王の花園に捧げて見せますわ」 ナタリーは、恭しくティターニアに一礼する。他の2人も同じ様に玉座に座る森の女王に一礼した。ミスリルの鎧に身を固めたアンリエッタ達は、足早に玉座の間から立ち去った。 城に戻った3人は、他の白百合騎士団の女騎士をティターニアの花園であるこの森の奥に誘い込むことだろう。何も知らない女騎士達は、ティターニアとその下僕となった女達に成す術もなく、捕えられる。後は、ティターニアと森の娘達が、女騎士達に魔を注ぎこむだけだった。「楽しみね。リリアの様に私を昂ぶらせてくれる女騎士がいるといいけど。」 かくして種は撒かれた。森の女王の下僕になった白百合の女騎士達は、この森を出て、彼女達が本拠地としていた白百合騎士団の城へと戻る。森の女王の花園に更なる犠牲者を…………白百合騎士団の女騎士達をおびき寄せる為に。「リリアちゃんに従っていた女騎士達が、この森に来るのが楽しみだわ。どんな可愛い子が、美しくて強い女騎士達が、私の花を植え付けられるのかしら。ふふっ」 玉座に腰かけた森の女王は、オレンジ色に輝く髪をなびかせていた。彼女の口元には、笑みが浮かんでいる。ティターニアが、ここまで興奮したのは、100年ぶりの事だった。 その日、ティターニアは、選んだ5人の森の娘を続けて抱いた。中には、最初にこの魔の森に迷い込んだ女騎士……オニユリのリリアも含まれていた。