発射された角は、はるか遠くに飛んで行った。勿論、実体の無い霊的な弾丸なので何かにぶつかる事は無い。『俺自体はめー君から五十メートルまでしか離れられないけれど、そこから更に舌や触角を伸ばし、切り離した一部を発射する事は可能と。この分なら魔術でも同じ事が出来そうですね。 では……戻りましょうか』 身を翻したバンダーは、五十メートル先のめー君ともう一人の自分の元に戻る。その速度は凄まじく早く、走っている車にも追いつけそうだ。『この速さもどうなっているんでしょうね? 本体の能力値がそのまま採用されているんでしょうか? ただいま、めー君、もう一人の俺』「ばんだー」『お帰り、もう一人の俺。じゃあ、元に戻りましょう』 ベビーカーの中できゃっきゃと楽しそうな様子の冥だったが、霊的な存在である事を活かして分裂していたバンダーが一人に戻ると、しゅんとしてしまった。「あぶぅ……ばんだー……」『めー君、一人に減ったんじゃなくて元に戻っただけだから、ね?』「奥様、今朝から冥ちゃんが時々言っている『ばんだー』ってなんの事だかわかりますか?」「それが、良く分からないのよ。多分パンダの事だと思うけど……」 冥は今、雨宮成美とお手伝いさん兼ベビーシッターの女性に連れられて公園に向かっているところだった。ちなみに、長男の博は友達の家に遊びに行っている。「う~」『めー君、外やこの人……お母さん達がいる間は抱っこできないのですよ。驚かせてしまうから』 雨宮成美をそう呼ぶ事に違和感を覚えるバンダーだったが、冥の前で実の両親に隔意がある様子を見せたくなかったので苦労していた。 さっさと吹っ切れないといけないのだが、まだ冥に憑いて一日と経っていない状態では無理だ。「じゃあ、冥ちゃんにはパンダが見えているのかもしれませんね。この前はワンちゃんが見えていたみたいでしたし」