かくして、家族会議の刻が来た。「あの赤い封筒の中身は、ファンレターじゃなくて盗撮写真だったんだね。いったいいつから?他にも何かされたの?心当たりは?どうして僕たちに隠したの?中岡さんの番組で言ってたのはこれ?」 動揺が治まらない様子で、矢継ぎ早に壮五が訊ねる。 それまでのらりくらりと大事なことを躱してきた男とは思えない、みんなのお兄さんに徹しながら本音で向き合ってくれるようになった、不動の最年長が立ち上がる。 「まあまあ、ソウも落ち着け。ショックな気持ちはわかるけどさ、そんないっぺんに訊いても答えらんねえって。なあリク?」 大和は、ソファの上でちょこんと体育座りをしている陸の真ん前まで進み、それから「よっこらせ」とくたびれたサラリーマンのような掛け声とともにしゃがみ、膝元に埋もれた顔を覗き込んだ。「俺はおまえらのこと、すげえ大切に思ってる。だから見捨てられたくなくて、いろんなこと隠して、逃げ出した。おまえはすごいよ。ここで逃げずに戦ってる」 こうして真っ赤な猫っ毛を豪快にかき乱してやるのもいつぶりだろうか。 さらさらとすり抜けていく懐かしい感触に、なんだか胸と目頭が熱くなる。 いつもならば、やめてよもう〜!と唇をタコのように突き出して、けれどもっと触ってと無意識に頭を擦りつけてきて、こちらは完全に止めるタイミングを見失って、陸も陸で本気で嫌がったり振り払ったりはしなくて、だから誰かのツッコミがない限り、その戯れ合いは終わらなかったものだが、今、陸に吐き出させたいのは、墨ではない。「おまえさんの純真さは、いつも俺たちをIDOLiSH7に繋ぎとめてくれた。リクのおかえりがあったから、俺は今こうしてここにいる。お兄さんたちは何があっても守り抜くよ、リクの居場所」 恐る恐る大和を見上げて、その篤実な瞳と向き合った陸は、再び膝頭に額を付けた。 両脇を譲らなかった一織と環が、そっと背中に手を添える。 壮五とナギは、この後のことを想定して、静かに用意を整えた。 コミュニケーション能力の高さと面倒みの良さで、輪から外れた者がいれば放っておけず、その結果、良くも悪くも他人の想いに敏感になった三月は、シロアリに食われた柱よりも脆い涙腺を、どうにか塞き止めようと必死だったが、上から二番目の年長者として口を開く。「怖かったよな。辛かったよな。もっと早くに気づいてやれればよかったのに、ごめんな。発作が出るかもしれないから本当はあんまり言いたくねえんだけどさ、もう、いいよ。オレたちが全部受けとめる。だから、オレたちといる今このときだけは、」──泣いていいよ、陸。「……ふ、うっ、うぅー、」 最初は健気に唇をかみしめていたが、吸入器を持ってきてくれた壮五と、ハンカチを手渡してきたナギと、背中に感じる二つのぬくもりに、陸の忍耐もとうとう決壊して、テーマパークで母親と再会した子供のように泣きじゃくり始めた。 「ほらおまえらも、今は、いいってよ」 ニッと笑って、テーブルの上に箱ティッシュをポスッと置いた大和に、物を投げてはいけません、と生意気な口がきけるようになるまで、寮内の湿度は局地的に上がりまくった。