「忘れたのか?寝惚けてンのか?俺ァこいつの『不運』が好きで、つきまとってンだ。だがよ、行く先を決めてんのはいつだってこいつだ。これァロージャの冒険だ。部外者は、黙ってろよ」 ガエウスは軽い調子で、けれど獰猛な笑みを隠しもしない。ユーリは僅かに俯いて、黙り込んでしまった。「……その二人が、あなたの、守りたいものなの?ロージャ」 俯いたまま、ユーリがつぶやく。もう声までも弱々しくなっていた。 また、苛立つ。シエスとルシャが僕の傍にいて、それでどうして、ユーリが苦しそうな、辛そうな姿を見せる。感情がどうしようもなくささくれ立つ。苦しかったのは、辛かったのは僕であるはずなのに。 シエスとルシャは僕の隣で何も答えない。ただ静かに僕の答えを待っている。僕の手と腕を握る二人の手を意識すると、僅かに苛立ちが引いていく。けれど胸の中の靄はもう、押し殺せそうもない。 ひとつ息を吸って、言い切る。「そうだよ。二人は仲間で、大切な人だ。僕が護る。そう誓った」「……」 ユーリの顔は見えない。 苛立ちが、溢れ出す。「……ユーリ。君こそ、何があったんだ。何を悩んでいるんだ。僕らは王都で別れて、別々の道へ進んだ。なのに君はどうしてまだ僕なんかを気にしている?」 ユーリは答えない。下を向く姿は、やたらと小さく見えた。 不快な靄が胸から溢れて、思考を覆う。 ユーリにフラレて、馬鹿みたいに落ち込んで。シエスとルシャに出会って、支えてもらって、僕はようやく前を向けた。ガエウスとナシトはそんな弱い僕に今も付き合ってくれている。皆のおかげで、僕はなんとか前に進めている。 なのに、僕と別れたユーリが、新しい仲間を信じたはずの彼女が。どうしてこんなに揺れているんだ。 僕ではない誰かの傍にいることを決めたなら、どうして今も僕を気にしている。大切じゃないと信じたから、僕の傍にいることを止やめたんじゃないのか。ユーリ。 大切なら、傍にいるべきなんだ。隣にいなければ、守ることもできない。 なのに、君は。僕を切り捨てて、それでもまだ大切なんだとでも言うつもりなのか。それとも、僕に冒険を続ける資格は無いと、僕は弱いと、そう言いたいんだろうか。 ユーリの想いは分からない。でも、ずっと一緒にいて、誰よりも僕を知っていたはずの彼女に、生き方を否定されたような気がした。 思わず拳を握ってしまう。苛立ちが膨れ上がる。