「お嬢が嫉妬……俺のために……?」 錆色に負けぬほど真っ赤になったアディの顔があった。「アディ、貴方ってばなんて顔してるの?」「……だって、お嬢が……俺のためになんて……俺はずっと嫉妬してたけど……だから、嫉妬するのは俺の方で……」 しどろもどろにアディが訴える。 長くメアリだけを想い、身分の差ゆえに諦めかけ、それでも諦められずに思い、そして敵わない男に嫉妬し続けたアディにとって『メアリが自分のために嫉妬する』なんて夢にも思わなかったのだろう。とりわけ、相手が他でもないメアリなのだからなおのこと。 喜んでいいのかどうして良いのか分からない、むしろ未だ実感しきれていないと言いたげな彼に、メアリがクスと小さく笑みを溢した。「あら、知らないの? 誰だって、アルバート家の令嬢だって嫉妬するのよ」 まるで前から知っていた事を教えてやると言いたげにメアリが説明する。 それに対してアディが錆色の瞳をぱちんと一度瞬かせ、穏やかに微笑んだ。メアリの頬に添えていた手をするりと滑らせ、そっと肩に触れてくる。「嫉妬なんてさせて申し訳ありませんでした」「まったくだわ。誰よ胃もたれなんて言い出したのは。やぶ医者よ」「その点に関しても誠に申し訳ありませんでした。廃業します」 誤診を謝罪し看板を下ろすアディに、メアリが笑みを強める。 彼の胸元に額を寄せるのは、言葉でこそ責めてはいるが怒ってはいないというアピールだ。察して、アディがより強く抱きしめてくる。「誓います。もう二度嫉妬なんてさせません。貴女だけを見つめます」「私もアディだけを見つめるわ。そもそも愛し合ってるのに嫉妬なんて時間の無駄よね。嫉妬してる暇があるなら、さっさと解消して二人でいちゃついた方が時間の有効活用だわ」 きっぱりと言い切るメアリに、アディが小さく「有効活用……」と呟いた。だが改めて問わないのは、メアリが再びアディの胸元に額を摺り寄せたからだ。「有効活用よ」とメアリが訴えると、察したアディの腕がメアリの腰に回される。 強く抱きしめられ髪を撫でられれば、メアリの銀糸の髪がふわりと揺れた。