いつの間に、といった顔で千が百を見た。へへ、と笑う百をまじまじ見ると、……なんだか、目が赤い?思わず指で触ってみる。 「ばっ、……ユキ、いきなりなに」 「……モモ、泣いた?」 「……」 図星のようで、百は黙った。先ほどまでいっしょに行動していたはずだが、まったく気づかなかった。十年近くいっしょにやってきて、相方の変化にも気づけないなんてと千は頭を掻いた。 「……ほんと、いまさっきのことだから。……なんか、ライブの日、来なきゃ良いのにって思ったら、勝手に泣いてた」 「どうして?」 「……陸のこと思い出したんだ。……あの子、ライブまではとっても元気だったのに。終わった途端、」 みるみるうちに百の目にまた涙が溜まる。百が言おうとしていることがわかって、千は手で口をふさいだ。 「もういい、モモ。……そうだな」 目の前の相方はみんなに見えないように、背を向けて目もとをごしごしとこすった。……そうだ、そうだったな。千はちらりと天を見た。 龍之介から余命半年の話を聞いて、まったく本当に神様なんていないんだなと千は思った。奇しくも弟と同じ病に倒れ、弟と同じように命の期限を突きつけられた。どんな気持ちで、それをひとりで受けとめたんだろうか。天が弟を大事に想っていたのは千の目から見てもわかっていたし、また弟も兄を本当に大事に想っていた。天のことを頼みます、なんて言って逝くんだから。……思い出したら、なんだか胸が締めつけられた。