初めての授業ということで今日は体力測定だった。100メートル走、反復横跳び、ソフトボールの飛距離。 風にあおられ、ボールが見当違いの方向へ飛んで行く。教師が叫んだ。 「小鳥遊!ボール取ってくれ!」 「あ、はい!」 陸が慌てて立ち上がり、ボールを追いかける。冷たい風が吹いてその体を砂ぼこりが包み込んだ。 「先生、持ってきました……ごほっ」 陸が咳きこみながらボールを教師に渡す。教師は頷いてボールを受け取っただけで陸を見ようともしなかった。 その後も陸はずっとグラウンドの隅に座っていた。 (陸さん、屋内に入った方がいいんじゃ……) 明らかにさっきより顔色が悪い。だが、教師は何も気づかないようだ。 チャイムが鳴り、陸がふらふらと椅子を抱えて校舎に入っていく。 「陸さん、大丈夫ですか?」 思わず駆け寄って声をかけると陸はにこりと笑って言った。 「大丈夫!ありがと」 次は日本史の授業だった。紡は斜め前方の席の陸が気になって授業をほとんど聞いていなかった。 明らかに体調が悪そうだ。いつもきらきらした眼差しを教師に向けている瞳が机に伏せられたまま動かない。握りしめたシャープペンシルは動かず、ノートも取っていないようだ。 (陸さん、どうして手を挙げないの……?) 手を挙げて教師に不調を訴え、保健室に行けばいい。あんなに苦しそうなのに、なぜ耐えているのだろう。