あの日、九条に言われたんだ。オレが生まれなかったときの天にぃの可能性を。 天にぃはなんでもできるから、いろいろな可能性があっただろうって。でも、オレがいたから。オレのせいで天にぃは九条のところにいかなきゃいけなかったって聞いた。 ……ううん、いいんだ天にぃ。何が本当のことなのかは、今はいい。だってねオレ、九条が言ったこと間違ってないと思うんだ……オレがいなければ、きっと天にぃはアイドルにはなってない。 オレね……、九条に『生まれてきてくれてありがとう』って言われたんだよ。 あははっ、オレあのとき頭の中が真っ白になっちゃった。『生まれてこなければよかった』って思っていたのに、いざ『生まれてきてありがとう』なんていわれると、すごく困っちゃって……困って、困って…… ああ、やっぱり『生まれてきちゃいけなかったんだ』って思った。 ……それからね、歌を歌おうとすると、分からなくなるんだ。 『生まれてこなければよかった』っていう気持ちがいっぱいになって。 『天の真似するな』って父さんの声が響くんだ。 頭の中で反響して、その音しか聞こえなくなって、歌い方がわからなくなる……父さんに殴られたのも、そう言われたのも、後にも先にもあのとき限りだったのにね。それでも、頭の中から消えないんだ。