天にぃ、天にぃ!!と会う度に陸は嬉しそうに天へと近寄っていた。どんなに厳しくされても、最初はめげていた陸も懲りずに近寄って行く。それは離れていた約五年の隙間を埋める様に。寂しかった心を癒す様に。 だが、今の陸は天を拒絶した。奇跡の歌を、皆を幸せにする歌を紡ぐ陸の口から出るのはこの世の絶望とも取れる言葉だけだった。 この病室にいる一織、大和、天は動けなかった。 大和の腕の中で暴れ、ゲホゲホと咳き込み、胸元を掻き毟る陸の姿を見て、動き始めたのは一織だった。微動だりしない天の腕を掴むと病室の外へと出し、扉を閉めると天はその場に膝から崩れ落ちた。 目を見開き何かを呟いているが、一織は天の頭に自分の着ていた上着を掛けその涙を隠した。未だ病室内からは陸の叫び声が聞こえ、大和が必死に宥めていた。一織は駆け出し主治医の元へと急ぐ。 唇を噛み締め、一織のその瞳には涙も浮かんでいた。だが、強引に袖で拭い足を進める。苦しいのは自分達じゃない。 今、一番苦しいのは・・・陸なのだから。