「遅いわね……」 天気は嫌というほどの快晴。時刻は午前10時を少し越した頃。私───氷川紗夜は公園の前で立っていた。いや、人を待っていた。 昨晩急にかかってきた電話……その相手が意外じゃないといえば嘘にはなる。その上、わざわざ休日を使ってまで私を呼び出したことに驚きを隠せない。 ……と言っても、想定外の相手だからという理由で口約束で交わした集合時間に遅れている事実を許すつもりは毛頭無い。 「……帰っていいかしら」 こんな所で無為に時間を過ごすくらいなら今すぐ家に帰ってギターの練習をしていた方が有意義だ。 そう思った私は後10分の内に相手が来なかったら帰ろうと脳内可決を下したその時。「───遅れてすみません、紗夜さん!」 待ち人は走って現れた。 炎天に照らされてキラキラと煌めく黒髪に指してある赤メッシュが印象的な彼女。暑い中、黒いギターケースを提げて、全力で駆けてきたせいか滴る汗が止まらない様子の彼女の名は───「予定時刻よりも9分ちょっとの遅刻ですよ、美竹さん」 ───バンド「Afterglow」のギターボーカル、美竹蘭だった。