「ごめんなさい。褒め言葉よ、悪く受け取らないで」 日菜の双子の姉である“氷川紗夜”、風紀委員で生真面目な性格と聞いていたけれど、なるほど雰囲気もどことなく堅い。 千聖自身の悪い癖、他人を隅々まで観察して深く分析しようとしてしまうのは、幼い頃からの芸能生活で身についてしまったものだろう。善い人もいるけれど、勿論悪い人もいるこの業界だから、いつ自分の足を引っ張られ、引退することになってしまうか分からない怖さが常にある。 それでも、最近はよく笑うようになったと日菜が言っていたけれど、似ても似つかない姉妹だと千聖は素直にそう思った。明るく元気に周りを魅了していく日菜とは対称的に、真面目で落ち着いた雰囲気な姉の紗夜。この人が思い切り笑った時の顔はどんな表情なのかしら? でもきっと……――彼女は美人の類よね。日菜ちゃんが可愛い部類なら、紗夜ちゃんはきっと綺麗の部類。すうっと滑らかに瞬きをする瞳も対称的で、彼女の方がほんの少し垂れ目、エメラルドの濃さもちょっぴり違う。じっと見つめていたくなるような不思議な人ね。「あの、なにか……?」「え? ああ、ごめんなさい。日菜ちゃんに携帯を渡しておくわね」「お願いします」 そう、まじまじと千聖が眺めてしまった所為で、目の前の紗夜は戸惑った様子だった。なんでもない風に返事をすれば、紗夜は頭をかるく下げた後に今度はじっと千聖のことを見つめ返してくる。どうやら、まだなにか用事があるらしい。 それとも、千聖が紗夜を見つめ過ぎたことに、なにか言いたかったのだろうか。どうかしたのと小首を傾げて促せば、なんだか難しい表情を浮かべながら数秒黙ったままの後に「やっぱり、失礼します」と言って彼女は足早に立ち去ってしまった。千聖には紗夜の言うやっぱりの意味を考えてみたけれど、さっぱり分からないままで傾げた首を更にきょとんと傾けることとなってしまった。 その答えを知れたのは、事務所に着いてからのことだった。