そんなある日の夜のこと。ランプの頼りない明かりだけが灯る朽ちかけた部屋の中で、わたしとお兄さんは隣り合ってソファーに座っている。どこがってはっきりとは言えないけど、なんだかお兄さんは凛さんに似ている気がした。だからなのか、お兄さんの近くにいると安心できた。
お兄さんの指先が頭を撫でて、気持ちよさとくすぐったさに身を捩った瞬間、耳元で囁かれた。
欲求不満なんじゃないかって。
よっきゅーふまん。その言葉の意味をわたしは理解できて、反射的にお兄さんの目を見つめ返してしまう。まるで全部を見抜いているかのような瞳に、わたしは小さく息を飲むことしかできなかった。
ふとお兄さんの指先が頬を撫でて、どきりと胸の奥が高鳴った気がした。お兄さんは何をする気なんだろう。頭はごちゃごちゃと混乱しているけど、奥底でわたしはきっと理解していた。
「えっと、お兄さん……そのっ、わたし……っ」
何かを言いかけて、結局何も言えなかった。
大丈夫だからって囁かれて、その声がどこかお兄ちゃんに似ていて。だからなのか、わたしは言われた通りに安心してしまう。
ふっと身体の力を抜いて目を閉じた瞬間。お兄さんの唇がわたしの唇に重なった。
「んっ……ふっ、ぁっ……んちゅ……んぅぅっ♡」
クロよりも大きくて厚い舌がわたしの中に入ってくる。舌同士が絡まり合って、ちゅうっと舌を吸われて。お兄さんとのキスは、クロとのキスと全然違っていた。
どこか乱暴で、気を抜けば壊されてしまいそうで……だけど、不思議なくらいにドキドキした。
太い腕でぎゅって抱きしめられて感じる固い身体は今まで知らなかった感触で、お兄ちゃんもこんな感じなのかなって、頭の片隅で考えてしまう。
「んぁっ、ぁぁっっ♡ んっぅ……んぁぁっ♡ ちゅっ、んちゅ……ぁっ、んぁぁッッ♡」
唇の端から唾液が垂れ落ちるのも気にならなかった。
舌同士が擦れあう度、頭の奥から気持ちよさが染み出してきて何も考えられなくなっていく。
お兄さんのキスは、クロと同じくらい上手だった。けれど男の人とキスをしてるっていう理解が、わたしのことを普段よりもどきどきさせていく。
壊れそうなくらい胸が鼓動を繰り返して、身体の奥が切なく疼いてしまう。
これが欲求不満ってことなのかな。
いつもは毎日のようにクロとキスをしていて。だけどこの世界にきてから、キスはずっとしてなかった。だからわたしは、ふと気を抜いた瞬間にキスをしたいって思ってしまって。それをお兄さんに見抜かれてしまった。
ダメなのにって思う。男の人とのキスは恥ずかしいし、クロとキスをするのとは全く意味が違うはずなのに、わたしは嫌って言えなかった。
どころか自分からお兄さんの肩に触れてしまう。がっしりとした肩をギュッと掴んで、わたしはお兄さんの唇に深く自分の唇を押し当てる。
「ぁっ♡ んぁぁッッ♡ ぁぁっ、ふぁぁッッ♡♡ んっぅ、んぅぅっっ♡♡」
お腹の奥がきゅんって切なくって、奥から何かが溢れそうになる。そんな切なさを紛らわせようと自然と腰が動いてしまって、当然そんな動きはお兄さんに気づかれてしまう。
「ひゃぁっ、ぁぁっっ♡♡ だめっ、なのに……ふぁっ、ぁぁッッッ♡」
お兄さんの指がスカートの中に入ってくる。パンツの上からぎゅっと指で大事な部分を触られて、びりっと背中に電流が走ったかのようだった。
まるでわたしが気持ちいいって感じる部分が分かっているみたいに、お兄さんの指は全然痛くなくて、ただひたすらに気持ちがよかった。
頭の奥がどろどろと気持ちよさに蕩けてしまって、何も考えられなくなっていく。声はどうやっても抑えられなくて、恥ずかしい声が奥から溢れてきた。
「いやぁっ♡ ぁぁっっ♡♡ ぁぁっ、ぁぁぁッッ♡♡ ひぅっ、んぅぅっっ♡♡♡ ぁぁぁッッ、ぁぁぁぁッッッ♡♡♡」
お兄さんの指を求めるみたいに腰がくねくねと動いてしまう。
自分がどうなっているのかも分からなかった。ただお腹の奥が切なくって、もっと気持ちよくなりたいって思ってしまって。わたしはお兄さんにぎゅっと抱きつきながら蕩けた声を漏らし続ける。