しかし、とソラは内心で腕を組む。 疑問があった。 たしかにソラはギルドに報復するつもりだったし、そのための計画として「平和的にギルドに喧嘩を売る方法」を考案し、段階を踏んで実行に移していた。 だが、ヒュドラを倒してからこちら、その計画はほとんど忘れていたというのが正直なところである。今はクライア相手に幻想一刀流を磨くことがすべてに優先する。それに、都市の惨状を尻目に高圧的にギルドを責める自分の姿を、スズメやセーラ司祭、それに子供たちに見せるつもりはなかった。 そもそも、ソラは自分の計画を公言したことはない。リデルはいったい誰の口からソラの計画をきいたのか。 それに、冒険者ギルドはソラの『竜殺しドラゴンスレイヤー』の功績を疑問視し、『偽・竜殺しドラゴンライアー』なる蔑称を広めてきたのではなかったか。今になってソラに頼み事をするなど虫が良いにもほどがある。 ソラの側にリデルの申し出を受け入れる理由はひとつもない。受け入れるどころか、腹を抱えてリデルたちの苦境を笑ってやりたいくらいのものである。リデルがどうしてもというなら話くらいはきいてやらぬでもないが、対価としてリデルのすべてを差し出すくらいのことをしてもらわなくては、話し合いのテーブルにつく気にもなりはしない。 ――と、そこまで考えたとき、ソラの右の眉がぴくりと跳ねた。今の自分の思考に感じるところがあったのである。 ソラは眼前のミロスラフの目をじっと見つめた。ミロスラフもまた、じっとソラの目を見つめた。 どれだけの間、そうして見つめ合っていただろうか。ソラの視界の中で、ミロスラフの口がゆっくりと開かれた。「リデルさんはエルガート卿に尊敬以上の感情を抱いています。そのエルガート卿の危機とあらば、たいていの要求は呑むことでしょう。ギルドに対する埋伏の毒とするもよし、『血煙ちけむりの剣』に引き抜いて使役するもよし、夜の糧とするもよし。盟主マスターの当初の計画とは異なるかもしれませんが、それを踏まえても十分な成果が得られると存じます」