現在タレントとして活動している彩だったが、近頃は体調不良を理由に休業していた。そういったわけで家で休養を取りつつも家事をこなす彩の元に一本の電話が飛び込んできた。『氷川さんの奥様ですか!?』「えっ!? はい、そうですけど……どなたですか……?」『あ、氷川さんの同僚の者です! そんなことより今すぐ都立病院に来てください!』「えっ、え!? どういうことですか!?」『氷川さんが倒れたんです! なので今すぐ病院に向かってください!』「はっ、はい! 分かりました! ありがとうございます!」 電話を切り、すぐに支度をしてタクシーで向かう。家が少し郊外なため、電車では時間がかかる。病院へ向かう彩の心には焦りが募っていった。(もし病気だったら……? 命に関わることだったらどうしよう……お願い……無事でいて……) 家を出てから二十五分ほどで紗夜が運ばれたという病院に着いた。料金を支払い、タクシーから飛び降りると、彩は急いで受付へと向かった。「あの、ここに、搬送されたんですけど……! どこかわかりますか……!?」「い、一旦落ち着いてください……!」 あまりにも突然のことに彩は軽くパニックを起こしてしまっていた。「す、すいません……!」「深呼吸しましょうか」 受付の看護師はなだめるように声をかける。 彩が呼吸を整えたのを見て、今度は看護師の方から声をかける。「それで、搬送された、と仰いましたけど患者様のお名前とご関係をお伺いしてもよろしいですか?」「あっ、えっと、搬送された氷川紗夜の妻の、氷川彩です」「氷川紗夜さん、の奥様ですね。少しお待ちくださいね」 看護師がパソコンで検索し、病室の番号を告げてくれた。「お待たせしました。氷川紗夜さんは三一六号室ですね」「あ、ありがとうございます……!」 エレベーターで三階に上がり、紗夜のいる病室を探す。「あ、ここだ……」 静かにノックすると中からどうぞ、というぶっきらぼうな声が聞こえた。「入るね……」「彩さん……」 見慣れた顔と目が合う。その頬は少しこけ、顔色は酷く悪く、土色だった。 紗夜の顔を見るなり彩はベッドまで駆け寄って体を起こした紗夜に抱きついた。