「…しょうがない」 起きたばかりで思考回路がうまく働かないのはもちろんだが起きるしかないためにゆっくりと体を起こす。体がだるいような気がしてもう一度布団へと戻りそうになるのをぐっとこらえて大きなあくびをする――やっぱり眠い。陸は目をごしごしと擦りながら無理やり重たい瞼を持ち上げる。 冷たい空気を吸い込んでカーテンを開ける、そうして差し込む朝日の心地よさに身を委ねつつ今日はなぜ目が覚めたのか少し考える。人間は夢を見ているはずなのに寝ている間にそのことも忘れてしまうことがあるのだとか、どうだとかそんな話を昔病院で聞いたことがあるような気がした。陸も実際頻繁に夢を見るほうではなかったし聞き流せる話だったためにきちんと記憶しているわけではなかったがここ最近は夢をよく見るようになったために昔のそんな話もふと浮かんできた。 今日の夢はそうだ―――いつもと違う、幸せなあのころの夢だった。それまでの悪夢を上塗りするかのような。