「我が魔力を生命の炎に、雷の鋭さを角に変じて現れよ! 【雷炎大獣群推参】!」 しかし、そのままヤハンナに接近する前に、更なる獣が彼女の魔術によって創られる。ボークスは舌打ちをして、ヤハンナへの接近を一端止めた。 明らかにウォーレンがジーナを倒し、戻って来るまでの時間稼ぎが目的だが、放置すれば後衛のザンディアに獣の群れが向かう事は明白だったからだ。 だがヤハンナが雷と炎で出来た獣の群れを創ったのには、別の目的があった。(ここから見えるだけでも、ブラハムと私達を入れて十人以上が此処に【転移】させられ、戦っている。彼らと合流できれば勝てる!) 獣を照明代わりにして、ヤハンナは周囲と自分達が置かれた状況を把握した。 自分達以外の英霊達も、【英霊化】を発動してヴァンダルーの仲間達と戦っている。英霊本来の力で戦っているのに、圧倒されず持ち堪えているヴァンダルーの仲間達は驚愕に値する。しかし、ヤハンナはこの状況を不利だとは考えなかった。 他の英霊達と合流し、連携して戦えば、ヴァンダルーの仲間の中でも高い戦闘能力を持つ者達を倒し戦力を大きく削り取る事が出来ると考えたのだ。しかし、その考えは甘かった。『【風走り】! 今だよ、ボークス!』『おうよ! どっこいせっとぉっ!』 何と、それまで獣の群れと戦っていたボークスが、巨体からは想像できない身の軽さで高く跳躍したのだ。壁が消えた獣の群れは、ヤハンナに創られた時に与えられた命令に従って、ザンディアへ向かって襲い掛かる。 それと入れ替わりに、ボークスは、ザンディアの風属性魔術によって空中を走って間合いを詰め、ヤハンナに向かって斬りかかった。『【竜殺し】!』「ら、【雷神壁】!」 得意技の武技を魔術で創られた防壁で防がれ、ボークスが憎々しげに、しかし楽しそうに口元を歪める。戦闘を楽しむ趣味は、フィトゥン達だけでは無く彼も持っていた。『魔術だけでこの技を防いだ奴は初めてだ! 外道の割にやるじゃねぇか!』(ヴァンダルーは隊長から『甘い』と聞いていたけれど、その手下は仲間を危険に晒しても術者を先に殺しに来るとはね。だけど、そう甘くはいかない!) ヤハンナは呪文の詠唱を続けながら、彼女の魔術で創った獣の群れがザンディアを蹂躙し、倒す事を確信した。 『小さき天才』ザンディアは、ボークスやジーナと比べて一段下だ。そして接近戦が得意だと言う話は一切聞かない。【詠唱破棄】で魔術を連打しても、獣を倒しきる事は出来ないだろう。「変身! 【御使い降魔】! 行くよ、陛下君!」『はーい』 そのヤハンナの予想は、あっさりと裏切られた。 ザンディアが掲げた杖の一部が、「変身!」の掛け声と共に分離変形して彼女の身体に巻きつき、ドレスとレオタードを掛け合わせたような形状に変わり、更に足元から闇の光としか言い表せない何かが吹き出し、纏わりつく。