二人の距離が、手の届くところまで近づいた。 「捨てられないよ」 「てんに…」 「だから、傍に居られないと思った。ボクの心を見せる訳にはいかないって、陸は察してしまうかもしれないから。……それなのに…」 ふるふると首を横に振った天の髪が、パサリと前に流れる。 それを払うように、陸は薄桃色の髪に指を絡めた。 「結局、陸に見つけられちゃったね。…もう隠せないくらいに、気持ちが膨らみ過ぎた…」 「……オレは、嬉しいよ?天にぃは迷惑かもしれないけど…」 「迷惑じゃないよ。…でも、困難はあるだろうね、ボクにも、陸にも。嬉しいで流しちゃいけないくらい、大変なことが…」 震える天の手が、髪に伸ばした陸の手を捕らえて、包む。 その甘く切ない感触に、陸の心が震えた。 「でも、陸と堕ちるならいいかなって、思っちゃった。……陸のそんな顔を見たら、抑えられそうにない…」 「…抑えないで、くれるの?」 「うん。だから…二人で堕ちて……」 (二人で、溺れよう…?) ふ、と笑いながら、天が陸の耳元で囁いた。 酷く甘くて、陸を蕩けさす声で。 陸はその声に肩を竦めて。 艶やかな笑みを、返した。 傍らに行けないと諦めていたその人に、囚われながら。